※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
高校生の頃に精神分析をご専門とする小此木啓吾先生の書籍を読んで感銘を受け、カウンセリングや対話を通じて患者さんのお悩みを解決に導く医師になりたいと思いました。
慶應義塾大学医学部に進学してからも精神科には興味があったのですが、アイスホッケー部に所属していた先輩の影響や、治療の効果がわかりやすく、自身の手で治していけるという点に魅力を感じたこともあり、外科系を専門とすることに決めました。
医師となってからは、外科医として救急診療や様々な治療を幅広く学んでいましたが、当時の医局では希望が重複した場合には専門性はくじ引きで決めることとなっていて、最終的に自分の専門は乳腺外科と決まりました。
以降、乳腺外科を長年専門としてきましたが、それまで救急診療や一般外科などの診療に触れた経験は医師として裾野を広げることに繋がったと感じています。外科医として幅広く基礎を学び、その上に乳腺外科という専門があると感じていますし、そうでなくては本当の意味で専門性を発揮することが難しいと思っています。
当院に赴任するまで勤務していた国立がんセンター中央病院は、がんの診療に特化しており、がんを専門とする中でも内科や乳腺外科、診断、手術、薬物療法というように、更に細分化した領域の専門家がいました。そして、各々が自身の専門分野の中で新しい治療方法や医療機器の開発、臨床研究に打ち込める環境が揃っていました。そのため、私自身も早期乳がんに対するラジオ波熱焼灼療法と言う治療法について2004年から臨床研究を行ってきました。
ラジオ波熱焼灼療法は、外科的な手術で乳がんを切除するのではなく、患部に針を刺してお灸のようにがんを焼く治療方法(左図参照)になります。
ラジオ波熱焼灼療法自体は、これまで肝臓がんに対する治療として多く行われてきた治療法となります。特に2000年代前半に多く行われており、その頃からどうやら乳がんに対してもラジオ波熱焼灼療法を応用しているという話が西日本を中心に報告されていました。このラジオ波熱焼灼療法を乳がんに応用するという発想は、海外から入ってきた治療法ではなく、日本で自然に発生したようでした。
ラジオ波熱焼灼療法は乳房温存手術と比較しても、傷が最小限で出血が少なく、時間もかからないため、ご希望される患者さんは多く、当時、国立がんセンター中央病院に勤務していた私のところにも治療法について尋ねにくる患者さんがいらっしゃいました。国立がんセンター中央病院には全国から患者さんがいらっしゃるのですが、中には他施設でラジオ波熱焼灼療法を受けられ、その後に再発した乳がんについてご相談に来られる方もいらっしゃり、私としては治療法に懐疑的な側面もありました。
実際に効果があるのか、再発率はどうなのかなどとはっきりとしたことがわからないことも多く、そのような中で正しい情報を患者さんにお伝えるためにはどうしたらいいかと悩み、臨床研究に取り組む事にしました。
先ずは、どういった乳がんにラジオ波熱焼灼療法が有効なのか、適応があるのか不明瞭な部分がありましたので、ラジオ波熱焼灼療法でどれくらい癌細胞が死滅しているのか、どの程度の大きさの腫瘍に対して有効かということを確認していきました。そして、ラジオ波熱焼灼療法が適応とはならない条件などを明らかにしました。
そのように実際にデータを集め分析していくと、これまで明確な適応なく行なわれていた治療も淘汰され、私自身、患者さんの疑問に対して分析結果をもとに回答できるようになりました。
その後、2013年からは乳房温存手術と比較しても治療効果に差が無いのか検証しています。こちらの研究については既に患者さんの登録は終了しており、現在は治療後の経過を確認している状態になります。
まだ臨床試験中の治療となりますので、一般の患者さんに対しては、患者さん側から治療の希望があった場合にのみ受けられる患者申出療養制度と言う制度の中で行なわれています。こちらの制度での治療は前任の国立がんセンター中央病院だけでなく、当院でも申し出が可能です。また、今後は段階的に他の地域のがんセンターや大学病院にも参加していただき、実施可能な施設を整備していく予定です。
これまで、早期の乳がんに対してはラジオ波熱焼灼療法によって癌細胞が死滅していることが確認できました。現在は早期乳がん、具体的には0期〜1期に対象を絞って取り組めば効果が見込める治療法だと思っています。
近年は乳がん検診の普及や検査機器の発達により、数ミリと小さな乳がんも発見できるようになっています。また、1mmくらいの小さながんでしたら、少しの力で取り除くことはできないかと思います。人の手では乳房の一部を切除することはできますが、mm単位の精度で精密に切除するということは極めて難しいことです。
外科医にとって、手術によって癌を取り除くことは治療の基本ではありますが、これは華岡青洲先生の時代と同じことになります。江戸時代と同じようにメスを使ってがんの治療をしているのですが、人類が月や宇宙に行く時代となった今ではもう少し変わって行かなければいけないと思います。
外科医として、がんを切除しないと安心できないという感覚が根底にはありますが、切除しないと安心できないままでいると、華岡青洲先生の時代から進歩できないですよね。
現代は画像診断がとても発達していますし、薬物療法も放射線療法も発展しています。外科医としても変わらなければいけないのではないかと思います。
以前、通院治療センターの患者さんに治療で困っていることは何かというアンケート調査を行い、女性がん患者さんが困っていることの第一位が脱毛であることがわかりました。
治療に伴う発熱や吐き気などの副作用は、それらを緩和させるお薬を使用することでコントロールしていますが、整容性のケアも大変重要な問題です。
乳房の切除に加えて髪の毛や眉、爪なども変化することは、かなりの心理的な負担が生じます。ウィッグなどもありますが暑い夏場は着けるのも大変ですし、事前に脱毛を予防することができれば少しでも患者さんの負担が減るのではないかと思いました。
何かできないかと思っていたところ、2011年頃にイギリスで医療機器として承認された脱毛予防の機器があることを知りました。抗がん剤が頭皮に回らないように頭皮を冷却することで脱毛を予防していく治療方法となり、抗がん剤治療を受けている患者さんを対象にヨーロッパでは比較的取り組まれているようです。
日本でも2019年3月にようやく医療機器として承認が下り、試してみたいというご希望があった患者さんを中心に治療に取り組んできました。
実際に活用していくにはスタッフの教育など時間もかかりますが、抗がん剤に対する脱毛予防ですので、適応症は広いと思います。
当院では適切な抗がん剤治療を安全に行い、再発のリスクを最小限にすることを第一にしておりますが、脱毛予防については、その上で効果的に併用できたらと思います。
現在は脱毛予防の医療機器の使用については、外来でお話しているなかで興味を示された方に詳しく説明している状況です。費用は発生しますが、ご希望と適応があれば実施することが可能ですので、気になる方は一度ご相談いただければと思います。
乳がんは、早期に発見できれば治りやすいがんの一つです。仕事や子育て、介護など女性にとっても忙しい時期に罹患することも多く、もしかしたら少し休んでというメッセージなのかもしれませんが、きちんと治療をすれば怖くないがんです。
今では様々な治療の選択肢がありますし、なかでもラジオ波熱焼灼療法は出血が少なく短時間の治療というメリットもあるので、これらの治療方法について知っていただけると良いなと思います。当院は乳がん診療を多く行っており、がん治療に対するデータの蓄積や経験が豊富にありますので、気になる症状がある場合には、ご相談いただければと思います。
また病院全体としても、がんに対するチーム医療に積極的に取り組んでおり、全国でも14施設しか認定されていない地域がん診療連携拠点病院(高度型)に認定されています。今後もがん診療に注力していきますので、乳がん以外でも気になる症状や治療方法についてご相談いただけたらと思います。
木下先生は医師としての原動力は患者さんと仰られ、副院長先生として大変お忙しいなかでも乳がん診療にかける想いを持ち続けられておられる先生です。患者さんとの信頼関係を重視されておられ、乳がんかもしれないという不安を抱いて受診をされた患者さんでも、木下先生に診ていただくことで希望が持てたり、安心したりできる患者さんが多いのではないかと思いました。
乳がんのみならず、がん診療に積極的に取り組まれておられる医療機関ですので、気になる症状がある方はご相談いただけると良いかと存じます。
一人の人間として、患者として、心に寄り添ってくれる、あったかい先生です。診察では何気ない話をしてくれます。社会ではなかなか理解されない、受け入れてもらえない自分にも普通に接してくれます。そんな私の気持ちを理解しようとしてくれるのですから、不思議な先生だと思います。
がん告知後、手術が決まって木下先生には「一緒に頑張って欲しい」と伝えていました。手術前、部屋を訪ねてきた先生は「任せてほしい」と仰りました。手術後も親身になって治療にあたってくれ、生きる希望を与えてくれた命の恩人です。