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※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
学生時代に公衆衛生の疫学を学んでいて、今後どのような疾患の患者が増えていくかという予測データを見たのが一つのきっかけです。やはり将来多くの患者さんが必要とする科を専門として選びたいと思っておりましたので、前立腺がんの患者さんが今後増えていくという予測をみて、泌尿器科に進もうと思いました。実際に前立腺がんの患者さんは年々増えていて、2015年、2016年と2年連続で男性で最も罹患患者数の多いがんとなりました。
大学を卒業してから、東京大学医学部附属病院で研修医として働きました。そのあと複数の病院で経験を積んだあと、1998年に同愛記念病院での勤務を開始したタイミングで、大学での研究もスタートしました。
それから、国立国際医療研究センターでの厚生労働技官を4年務めたり、同愛記念病院で臨床に集中する1年を挟んだりしておりますが、基本的にはずっと東京大学医学部附属病院で、臨床・研究・教育の全てを行っており、2018年1月から国立国際医療研究センター、2018年4月から自治医科大学 腎泌尿器外科学講座 教授となっています。私は臨床だけでなく、研究もとことんやりたいタイプなので、今の環境は自分の力を最大限発揮できる環境だと感じています。
2010年には、アメリカのデトロイトにあるHenry Ford Hospitalに留学しました。この病院は特に前立腺がんのロボット手術に関する実績が豊富にあり、世界最高峰の技術を間近で学べる非常に貴重な経験で、自分の力を大きく伸ばす基盤になったと感じています。
前立腺がんの手術の場合、従来の方法としては大きく分けて2種類、お腹を切り開いて行う「開腹手術」と、お腹に小さな穴を開けて腹腔鏡を入れて行う「腹腔鏡手術」があります。ロボット手術は腹腔鏡手術の延長で、医師が自分の手で直接腹腔鏡や鉗子をお腹に入れるのではなく、医師が操作するロボットが腹腔鏡や鉗子を操作するというのが特徴です。ロボット手術は、お腹にあける穴が小さいこと、手ぶれが補正されること、視野が10倍に拡大された状態で手術ができること、など患者さんの回復のためにもメリットが多くあります。実際に治療成績を見ても、尿もれの減少、男性機能温存、再発のリスク低下など、ロボット手術のほうが従来の方法よりも治療成績がよいことがわかっています。
この2018年4月から、前立腺、腎臓に加えて新たに12の術式が保険収載されました。泌尿器科領域では、膀胱癌に対するロボット支援下膀胱全摘除術が新たに保険収載されました。まだ日本では限られた施設でしか実施できませんが(自治医科大学では実施可能です)、今後広がっていくことが予想されます。
また、今後は機械の小型化や低価格化が進み、ロボット手術を実施できる病院が増えていくと思います。今のところ、ロボット手術は高額で大掛かりな機械を必要とするため、全ての病院で実施できるという状況にはなっていません。アメリカでは病院の専門領域の細分化が進んでいるため年間の前立腺がん手術件数も1,000件を超える病院があったりするのですが、日本では特定の疾患に特化した病院は少なく、100件がいいところです。当然もっと少ない病院もあります。そういった病院ではなかなか高額な機械の導入には踏み切りにくいですよね。機械の低価格化が進めば、今まで導入を見送っていた病院にも広がっていくことでしょう。
前立腺がんの患者さんを治療する前に、その患者さんのガンが今後どのように進行していくのかを予測し、ベストな治療を判別できるようにするための基礎研究を行っています。前立腺がんの進行や予後と、ステロイド受容体の状態には関連性があるということがわかっていて、これをさらに詳細に明らかにすることで、前立腺がんの有無を確認するための生検の時点で、その患者さんの前立腺がんのことを詳細にわかるようにしよう、ということを研究しています。これができると、患者さん1人1人の前立腺がんの治療方法について、もっと正確で詳細な個別対応が可能になり、前立腺がんの患者さんの予後も良くなっていくはずです。目の前の患者さんを治療するのは当然として、この基礎研究のように将来の患者さんのためになるような研究を進めることも、医師としてすべきことだと考えています。
私は昔野球をやっていて、キャッチャーだったんですね。ですので野村監督の「ID野球(データに基づく野球)」という言葉に似せて、「ID Urology」(Urology:泌尿器科)という言葉を常々使っています。医療もデータをきちんと集積して、分析することで、どんどん良い方向に磨き上げていくことが必要だと思っています。ですので、自分が手術をした患者さんは可能なら、できるだけ長い期間その後の状態を診せてもらいたいと思っています。術後の患者さんを「逆紹介」という形ですぐにかかりつけ医に戻してしまう病院もあったりしますが、私としては手術をしておしまい、ではなく、その後患者さんが健康に過ごすことができているのか、長期的に見て自分のした治療は本当に正しかったのか、ということまで確認したいと思っています。
仲が良く、皆が同じように患者さんのことを第一に考えているチームを作っていきたいですね。まだ赴任して間もないですが若いスタッフも、自らの仕事に責任感が強く、知識の吸収に貪欲なメンバーが多くいます。
前任地にいたときの少し前の話ですが、私がある学会に出席した時に、現地で当院の看護師も出席しているのを見つけたんです。出席するということは知らなかったので、驚きました。病院から参加費が支払われるわけではないので、その看護師は休みの日に、自腹で参加費を払って参加していたんです。「貴重な休みなのに参加費を自分で払ってまで参加しているのか?」と聞くと、「自分の知識をもっと深めたいので。」と言うんですね。正直、感動しました。周りにこういう仲間がいるということは幸せなことだなと思います。
医療というのは医師だけで成り立つものではありません。手術であれば麻酔科医の協力も必要ですし、手術室や病棟の看護師はもちろん、病理の先生やICUのスタッフなど、周りにいる多くのスタッフが全員力を合わせてよい医療というものは初めて実現できます。そういう意味では、当院は非常に優秀なスタッフを多く抱えています。自分がもし手術をしてもらうとしたときに、安心して任せたいと思えるのは、非常に良い病院ということなんだと思います。前立腺がんだけでなく、腎がん・膀胱がんで手術をする、と決めた患者さんは安心して来てもらえればと思います。
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