※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
医学生の頃より外科医になりたいという思いはあったのですが、外科の中でもどの診療科に進むか迷っていました。診療科を決めるために医局訪問をした際、その訪問先で出会った呼吸器外科の先生より後日、「医局に机を準備したので見においで」とお電話があり、縁あってそのまま入局することになりました。
また、外科医として働くには周術期の呼吸管理に精通することが不可欠と感じていて、そもそも呼吸器とはどういう器官なのかということや、呼吸器疾患の幅広さなどにも興味がありました。そして、もっと呼吸器外科の知識を深めたいと思い、米国医師免許試験(USMLE)、ECFMG取得に励み、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ワシントン大学(セントルイス)へ留学しました。
複十字病院は東京都清瀬市にあり、終戦後結核の療養所として始まりました。そのため昔より呼吸器に関して強みのある病院でした。そして現在でも、関東をはじめ全国各地から、呼吸器疾患の患者さんの相談を受けています。複十字病院では、年間の呼吸器外科手術件数 約200例のうち、肺がん手術件数は約50%を占め、非結核性抗酸菌症手術件数は約20%を占めています。
肺がんは4つのステージに分類され、ステージによって治療方針が決定します。主に、ステージ1期・2期の場合は手術療法、3期・4期の場合は抗がん剤治療や放射線療法を組み合わせて治療をしていきます。3期であっても病状によっては手術する場合があります。
私が複十字病院に赴任した1998年より、従来の手術よりも小さな手術創(傷あと)で済むように、肺がんの胸腔鏡手術を積極的に取り入れるようになりました。胸腔鏡手術では手術創だけではなく、胸筋も切らずに手術できるため痛みが少なく、回復も早いというメリットがあります。また、小さな創からの操作でも、出血の少ない安全な手術を目指してきました。
外来では患者さんの目や顔を見て話をするように心掛けています。また、難しい医療用語を分かりやすい言葉に置き換えて説明することで、患者さんが不安を溜め込まない様に気を付けています。手術をするかどうかの判断を下すにあたり、一番大切なことは患者さんの意思だと思いますので、意思を尊重できるように、一人一人とのコミュニケーションをしっかりとれるように心掛けています。
それから、何回も足を運んでいただかなくても済むように、診断・治療に必要な検査は、初診の日のうちに受けていただき、可能な限り当日に結果を説明するようにしています。当院の強みは、疾患を診断するにあたり必要な、CT、MRI、肺換気・血流シンチ、PETといった画像検査設備が整っていることです。
手術前に行うインフォームドコンセントの際は、患者さんの手術に対する不安を取り除けるよう、相談しやすい環境を作るようにしています。「この先生なら命を預けても大丈夫」と思っていただけるような信頼関係を築くことが大切だと考えています。
手術前に気を付けて欲しいこととして体調管理があります。風邪やインフルエンザが流行している時期は、手洗いやうがい、人ごみを避けるなどの対策が必要です。風邪をひいてしまうと手術が延期になる場合があるので、ご本人もその周りにいるご家族も気をつけて欲しいと思います。
また、喫煙は肺へ悪い影響を与えるので、最低でも手術1ヵ月前から禁煙して欲しいと思います。一人で禁煙することが難しい時は、当院には禁煙外来があり、連携がとりやすい環境にありますのでご相談ください。
そして当院では、手術2~3日前より入院していただき、呼吸のリハビリテーションを行うようにしています。具体的には、痰を出す練習、コーチ2という呼吸療法器具を使った呼吸訓練、6分間歩行試験(酸素濃度を測定しながら歩行をする試験)になります。これらの呼吸リハビリテーションを行うことで、術後合併症のリスクを下げることができます。
私は、新患外来やセカンドオピニオン外来を担当しています。私の元に来られる患者さんの多くは、肺がん、結核、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症、膿胸などの患者さんです。当院を紹介受診された患者さんの中には、非結核性抗酸菌症と診断されてから15年以上治療をされた上で来られる方もいます。
非結核性抗酸菌症や肺アスペルギルス症などの肺感染症の手術と、肺がん手術との大きな違いは、炎症に伴う癒着が強く、手術が難しい場合が多いことです。当院では、年間40~50名の肺感染症の患者さんの手術をしていますので、専門的なことを聞きたいなど、治療を悩まれている方は、症状が重くなる前に受診していただければと思います。
手術は治療のスタート地点と考えています。手術をしたら治療は終わりではなく、例えば、肺がんの手術をした場合、最低でも5年間は経過を追っていく必要があります。非結核性抗酸菌症に関しても、手術をして2年間は抗菌薬の内服が必要になります。手術は治療の一部にすぎませんので、手術後も定期的にお会いし、フォローしていきたいと思います。
呼吸器外科には、私の下に4名の医師がいます。後輩医師に技術や知識を余すことなく伝えていくことを目標にしています。結核は、現在患者数が減るとともに、専門的に診られる医師も年々減ってきています。薬物療法などの進歩で手術をせずに軽快される方もおられますが、結核も、非結核性抗酸菌症もいまだに手術を必要とする患者さんがおられる疾患です。少しでも多くの若い先生に専門的な知識や技術を伝えて患者さんのためになればと思います。
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