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※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
医学部に入り、社会へ貢献したいと考えた時に、外科が一番わかりやすく結果を表しやすいのではないかと思い、外科を志すことにしました。
千葉大学医学部を卒業した後、千葉大学医学部附属病院の第2外科へ入局しました。第2外科では移植医療に力を入れていたという環境もありますが、移植により、患者さんが今まで失っていた機能を元の状態に戻し、患者さんの命を助け、生活の質の向上に繋げられるということに魅力を感じ、移植の分野を極めようと考えました。
腎臓の働きには、血液を濾過して老廃物を尿として出す働きや、体内の水分の調整、電解質のイオンバランスを正常に保つ、ホルモンを分泌するなど、体にとって大切な働きをしています。そのため、腎臓の働きが悪くなると老廃物の排泄が十分にできなくなり、体の中の環境を正常に維持出来なくなってしまいます。この状態を腎不全といいます。
腎不全の原因で一番多いのは糖尿病です。患者さんの中には自覚症状が出ないまま病状が進み、腎臓が悪いと言われて初めて病気に気づく患者さんもおられます。その他に、IgA腎症などのように学校検診で異常を指摘されて、治療を行っていたが腎不全に陥ってしまう場合や、高血圧をコントロールできないために腎不全になる場合などがあります。
血液透析の場合、まずシャントを作る手術が必要になります。局所麻酔で行う手術になりますので、比較的導入しやすい方法になります。しかし、病院への受診が週2~3回、1回4~5時間という時間の拘束や、水分や塩分などの食事の制限など、生活の質を落としてしまうデメリットがあります。
腹膜透析は、腹膜カテーテル挿入手術を行い、お腹の中にチューブを固定して、透析液をお腹の中に入れることで時間をかけて老廃物を除去します。この方法は自宅で寝ている間でも可能なため、血液透析に比べると時間の拘束はありませんが、お腹の中にチューブを入れておくので腹膜炎やチューブ出口の感染症などといった合併症が問題となる場合があります。食事制限はありますが、血液透析と比較すると穏やかです。とはいえ長い間、腹膜透析をおこなっていると腹膜の機能が低下するため、5年間ぐらいしか行うことができず、その後は血液透析や腎臓移植へ移行するケースが一般的です。
腎臓移植は全身麻酔下での手術となるため、手術に適応できる全身状態かがまず問われます。また、手術の合併症で後遺症を残すこともゼロではないですし、手術後に一生、免疫抑制剤を内服し続けなければなりません。しかし、腎臓移植はデメリットよりもメリットの方が多い治療になります。メリットとして、透析における合併症(動脈硬化など心臓や血管系の合併症)が改善されますし、生命予後も透析をした患者さんよりかなり改善されます。また、通院は1~2ヶ月に1回と透析に比べて少なく、食事制限も透析に比べると少なくなるなど、生活の質においても腎臓移植の方が優れています。
腎臓をもらう方をレシピエント、腎臓を提供する方をドナーといい、健常なドナーからの腎臓移植を生体腎移植、亡くなられたドナーからの腎臓移植を献腎移植といいます。
生体腎移植でドナーがいる場合、移植施設である病院へ受診すればいつでも話を進めることが可能です。腎臓移植手術を進めるにあたり、レシピエントとドナーとのペアが成立するかどうか、両者ともに検査が必要となります。そのため、初めて病院に受診されてから腎臓移植手術まで3~4ヶ月の期間を有します。ドナーになるためには親族の方(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族)、原則70歳くらいまで、心臓、肝臓、肺に大きな病気がないなどが必要となります。
血液型が違うと移植できないと思われているようですが、移植医療の進歩により、今では、血液型が違っていても手術前に準備(免疫抑制剤の内服、リツキサン注射、血漿交換など)を行えば腎臓移植を受ける事ができます。
一方で、献腎移植は移植病院へ登録をしてドナーを待つことになります。待機期間は平均約15年と長いため、その間に透析の合併症が進行する場合があります。
また、腎臓移植における入院期間は平均1ヶ月です。退院前に、移植後の腎臓が正常に機能しているか腎生検などの検査を行い評価する必要があるためです。退院後は、免疫抑制剤の内服はもちろん、風邪などの感染症への対策や、塩分やカロリーの摂りすぎに気をつけるなどの食事管理等の自己管理が必要になります。
千葉東病院は、腎疾患準ナショナルセンター機能を有する施設です。当院のように腎臓移植、膵臓移植、膵島移植を行っている医療機関は全国で約10施設しかありません。慢性腎不全(透析)だけでなく重症1型糖尿病の患者さんへの膵臓移植も常時対応しています。
慢性腎不全を併発した1型糖尿病の患者さんの場合は腎臓移植と膵臓移植(膵腎同時移植)を行う必要があります。冒頭でもお話したように糖尿病の場合、腎不全を起こしやすいため、長い間1型糖尿病を患っていると慢性腎不全も併発することが多くなります。腎不全も低血糖症状を含めた糖尿病も改善されるので、膵腎同時移植はメリットが非常に大きいといえます。
患者さんの生活背景を考えて診療を行うようにしています。
例えば、免疫抑制剤はきっちり時間通りに内服しなければなりません。患者さんには、仕事の関係でうっかり忘れてしまいがちになる患者さんも実際おられますので、どうしたらきっちり内服できるかを一緒に考えるようにしています。また、感染症を起こしている場合には早期に対応しなければ治療がむずかしくなる場合もありますので、早期に対応、治療できるようフォロー体制を整えています。
私は、移植臓器の保存方法の研究や、膵島移植の研究をしています。移植臓器が長期間保存可能となれば、より遠くへの搬送やレシピエントの選択に余裕ができ、より安全な移植が可能となります。また、膵島移植の成績がさらに改善されれば、膵臓移植からより低侵襲な膵島移植へシフトされ、患者さんにとっては大きなメリットとなります。私の研究が将来の医療に少しでも役立てられたら良いなと考えています。
これから腎臓移植を考えている患者さんは、ドナーの方も含めて考えないといけませんので難しい問題ではあると思いますが、腎臓移植をすることで透析による合併症を回避する等のメリットの方が大きいと思われますので、そういう機会に恵まれた方は、専門医のいる医療機関に是非相談をして欲しいと思います。また、献腎移植を少しでも考えている方は、待機期間の問題もありますので、登録を早めにすることをお勧めします。
また腎臓移植後の患者さんは、各病院に患者会があると思いますので参加されることをお勧めします。千葉東病院にもクローバーの会という患者会が活動しており、私も会のイベントに参加して、腎臓移植後の悩みや相談など日頃患者さんが考えていることを情報共有することで、個々の患者さんの不安を和らげ、日常の診療に少しでも役立てればと考えています。
ちなみに、クローバーの会で腎臓移植後の質問で多い内容は、発熱や塩分制限、水摂取に関する質問です。発熱があった場合は、放置せずに必ず病院へ連絡しましょう。感染症をこじらせると肺炎などのように大変な状態になる場合も多いです。どうしたら良いのか医師や看護師と相談をしてください。
水分摂取に関しては、腎臓移植後の場合1日2リットル以上飲むことを指導しています。水分を摂取することで、老廃物を排泄させやすくなるなど腎臓の負担を軽くしてくれます。また、塩分の摂り過ぎは腎臓や腎臓以外の臓器に悪い影響を与え、高血圧の原因にもなるので気を付けるようにしましょう。
とにかく、患者さん自身でできることもたくさんありますので、自分でできることをしっかりおこない、提供された腎臓を長く大切にして欲しいと思います。
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