※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
日本赤十字社医療センターの脊椎整形外科は、腰痛を始めとして脊椎・脊髄疾患の先駆的存在と言ってよいと思います。1980年台に当時整形外科部長の蓮江光男先生が、その頃はしかたないと言われていた高齢者の坐骨神経痛に対する手術を行うようになったところから、「綿密な診断による正確な原因特定と、最善の治療を行う」という治療方針は脈々と受け継がれています。当院の脊椎整形外科のメンバーは皆がこの治療方針を旨に日々患者さんと向き合っています。
さらに蓮江先生のもとで副部長を務められた菊地臣一先生(現福島県立医科大学理事長 兼 学長)が、学術的な面をさらに強化されました。その後を私が継いで、手術法の研究開発という分野で、脊椎整形外科領域をリードするような最先端の術式を数々編み出してきました。
元来、脊柱管狭窄症に対しては、神経を圧迫している骨の一部を切除することで神経や血管の圧迫を開放(除圧)したり、正しい位置に戻しつつ固定するという手法が取られてきました。両方を同時に行うこともあります。
この治療でも5-6年の間、痛みが軽減させることはできますが、その後にまた固定した部位の上下で何かしらの症状が発生してしまったり、切除にともなって腰椎の強度が低下してしまい、加齢に伴って別の箇所が圧迫されたりということに繋がってしまうことが多くあります。せっかく手術をするのであれば、再発しないような方法を追求するべきだ、という考えで編み出したのが還納式椎弓形成術です。
この治療は、脊柱管を圧迫している部分を治療するために、脊柱管を挟んで椎間と反対側にある「椎弓」という部分を一度切り離しておいて行う治療です。椎弓を一度切り離し、脊柱管の周りの骨や靭帯を必要なだけ削りとり、その後切り離した椎弓を再び元の位置に戻して、最後にこれを再固定します。
この治療のよいところは、圧迫を解消するための骨の切除が必要最低限で済むということです。つまり骨を極力残しておくことが可能になるというメリットがあります。骨の接着には、以前は骨セメントを使っていましたが、その後フィブリン糊や医療用のアロンアルファなどを経て、今は4-5mmの大きさのチタンミニプレートを使って固定する方法を採用しています。患者さんは1週間位で退院することができます。
なお、腰椎すべり症などを併発していて骨を切除したことで背骨が不安定になると予見できる場合には、同時に「脊椎変形矯正固定術」も行うこともあります。固定術を行う場合にも、骨が通常よりももろくなっているような患者さんに対してはがっちりと固定しすぎてしまわないように、1-2mmの「遊び」を意図的に残した固定器具を使っていたり、患者さんに合った治療というものを常に追究しています。
受診される患者さんの多くは、既に症状が出ていて、我慢できない痛みを感じている方もいます。また、単純な痛みだけではなく、痛みやしびれによって長い時間歩けなくなったり、生活が制限されたり、今までできてていたことができなくなったりすることによる精神的なダメージや、将来に対する不安などもあります。
こういった患者さんの「病気」だけを見るのではなく、ちゃんと「人」として向き合うことが大事だと思っています。我々がすべきことは手術だけではないということです。手術のあとのケアも疎かにしない。そういうことで患者さんからの信頼に繋がります。我々にとっては患者さんに「あの病院は、手術はもちろん、術後のケアや、スタッフのかたの対応も含めて本当に良かった。周りの人におすすめしたい」と思っていただけることが何より嬉しいです。そういった声が少しずつ広まって、患者さんが年々増えています。それに伴って私の仕事も年々増えていくので大変ですけどね。
最近手術をした患者さんにも、シニアのスポーツで世界大会にでるほどの腕前の方がいらっしゃって、腰の痛みで非常にお困りでした。その方とお話する中で、ただ痛みを軽減させるだけではなくて、その方が再び競技ができるようになれるかがポイントなんだと感じ、僅かな足のしびれすら残さない、そういった意識で手術に臨みました。手術が終わった後には、腰の痛みもなく、足のしびれも発生せず、「ありがとうございます、これでまた競技を続けられます」と喜んでいらっしゃいました。こういった声を聞くとやはり嬉しいですね。
日頃から適切な運動をすること、悪い姿勢を取らないようにすること、ヘルシーで健康的な生活をすること、メンタル面の管理をきちんとすること、などに気をつけていただきたいです。日々患者さんと向き合いながら我々が蓄積している知見を書籍としてもまとめていますので、もし気になったらご覧になっていただくと参考になると思います。
日本赤十字社医療センターは整形外科を「脊椎整形外科」と「骨・関節整形外科」に分けて、それぞれに専門家を多く有しています。これからも各々の科のレベルをあげていきたいと思っています。
それから今後は高齢化社会に伴って、骨粗鬆症など高齢者に多い症状を持たれた患者さんも増えていくと思われます。患者さんのライフスタイルや症状の変化にあわせて対応できる体制づくりというものもポイントになると考えています。
日本赤十字社医療センターは、日本赤十字社医療施設の中でもフラッグシップ的な位置づけの病院です。そして昔から患者さんからの信頼は厚い病院だと思います。一方で個人的には、我々が無意識のうちにその信頼の上に少し安心してしまっている部分はないか?ということを常に自問自答しています。
今、当院では本間院長のもと、日本赤十字社医療センター全体が、患者さんに対してよりよい医療を提供できるように進化しようとしています。特に重点項目として小児・周産期医療、がん診療、救命救急、災害救護の4つを掲げていますが、これだけに限らず、全診療科の連携を強化して行く予定です。私も本間院長の目指す「10年後に日本赤十字医療センターはかくあるべき」という姿を実現できるよう、頑張っていきたいと思っています。
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