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※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
幼少の頃よりプラモデル製作などを得意としていて、手先が器用でしたので、手先の器用さを活かせる仕事として歯学部を志しました。
歯学部在学中は矯正治療も好きだったので、口腔外科と迷いましたが、口の中だけでなく全身管理にも関わりたいと思い、口腔外科を専門にすることにしました。学生時代は少林寺拳法部に所属していたのですが、部活の先輩が横浜市立大学の口腔外科にいらっしゃり、見学した際の雰囲気が良かったこともあって、卒業後は横浜市立大学の口腔外科学教室に入局しました。
卒業後は口腔外科を専門的に学んでいましたが、1、2年と経ち、小手術などが任されるようになってくると、やはり矯正治療にも取り組んでみたいと思うようになりました。そのため、日曜日にはいくつか矯正専門医の先生のところを訪ね、矯正治療についても勉強させてもらいました。
平日は口腔外科で夜遅くまで仕事をし、日曜日は矯正治療を勉強していましたので、当時は休みなく働いていましたね。そうして矯正治療と口腔外科をともに学び、治療の全体像が徐々に身につくようになると、顎変形症の治療において矯正治療と口腔外科が結びついているとよくわかるようになりました。矯正治療を行う際に、患者さんのなかには顎変形症による顎のずれの手術も必要となる方がいらっしゃるのですね。そうした患者さんを診ていくうちに、口腔外科医として自身でも手術ができるのではないかと思い、顎変形症の治療に携わるようになりました。
おかげさまで顎変形症や矯正治療を希望される患者さんは多く、センターを開設しました。顎変形症は顎の発育に伴って生じるものですので、当院を受診される患者さんは20〜30代の方が中心となりますが、なかには50代、60代という方もいらっしゃいます。
具体的なお悩みとしては、噛めない、食べにくい、口が開かない、顎が曲がっている、突出しているというお悩みの方が多いです。顎変形症の方の場合、顎がずれることで口唇閉鎖不全と言って唇が閉じにくいことも多いです。そのため、口呼吸となってしまう方も多く、それによって鼻が詰まるなど耳鼻科疾患でのお悩みを抱えている方もいらっしゃいます。
また、笑うと歯茎が出る、いわゆるガミースマイルでお悩みの方もいらっしゃいます。これはアジア人に多いのですが、歯茎が前に出ているというだけではなく、鼻から唇にかけての距離も長いために唇が閉めにくく笑うと歯茎が出てしまうのです。そういう場合も口呼吸になりやすく、扁桃肥大(アデノイド)も生じておられる場合もありますね。
当院では顎変形症の場合、術後1週間程で退院となることが多いです。お食事は手術の翌日から流動食を開始し、一週間くらいでお粥へと移行していきます。また、手術後は噛み合わせを固定するためのゴムをつけていただき、顎を安定させるようにしています。
患者さんからはどのくらいの腫れや痛みが生じるかと聞かれることが多いのですが、どうしても手術する以上、強く腫れや痛みは伴います。腫れはだいたい2週間程度で引きますが、手術後の変化を確認するための写真は顎の状態が安定した頃、おおよそ手術の3ヶ月後に撮影するようにしています。
当院の治療の特徴でもあるサージェリーファーストとは手術前の矯正治療を行わず、最初に手術を行う方法です。通常の顎変形症の治療では、手術前に1年くらいかけて矯正治療を行い、その後に手術、そして手術後に再度矯正治療を行いますので、治療が完了するまでに3年はかかります。しかし、サージェリーファーストの場合は最初に顎の骨のずれを手術で直し、その後から矯正治療を行うので治療期間は1年半くらいに短縮できます。治療にかかる時間が約半分になるので、患者さんにとって非常にメリットが大きいと考えています。この治療法は自費診療となってしまいますが、それでも望まれる方はいらっしゃっていますので、今後も続けていきたいと思っています。
単純な下顎骨折は受診後、直ぐに手術で整復することが可能なのですが、例えば交通事故などで全身に骨折があったり、脳に障害が生じたりすると、生命維持のための全身的な治療が優先されるため、顎の治療が二の次、三の次となってしまうことも多くあります。他の部位の骨折と比べても後回しとなる事が多く、2~3ヶ月後に顎の骨折に気づかれるという事もあります。骨折後1年や2年と時間が経ってしまうと、折れて骨がずれた状態で接合してしまう場合もあります。ずれた状態でも口は開くのですが、噛み合わせに影響してしまいます。そして、顎関節の周りを骨折された場合には顔面神経という顔の筋肉を動かすための神経が走行しているため、一度折れた部分の手術は顔面神経麻痺のリスクもあり、とても難しいものとなります。
私が経験した症例でも、外傷後しばらくして歯科を受診した際に、噛み合わせのずれを指摘され、顎関節(下顎頸部)骨折の既往があったことからどう治療していいかわからないと、当院に紹介されて来た方がいらっしゃいました。幸い、口の開閉については機能が保たれていたので、それを生かし、顎変形症で行う下顎骨を削る方法や矯正治療の方法を応用して噛み合わせを治すことができました。
この他にも、事故の後、1〜1年半ほどして、噛み合わせが合わないと受診された方もいらっしゃいました。事故によって顎が後ろにずれ開口障害が生じてしまっていたので、受傷前の写真を参考にして下顎骨を延長する治療を行いました。
これらの治療では顎変形症の治療で行う手術の手法と矯正治療に用いる手法の応用が必要となりました。私は10年以上前からこのような顎変形症の治療を応用した治療を行なっていますが、これらの治療は非常に難しいためか、積極的に取り組んでおられる先生はあまり多くはいらっしゃらない状況です。そのため、遠方からご紹介されていらっしゃる方も多いです。
私が治療を得意とする顎変形症は噛めない、話しにくいという機能面での悩み以上にご自身に対するコンプレックスや劣等感に悩んでおられる方が非常に多いです。手術の前に撮影する病態写真では笑った顔を撮らせて貰うのですが、フルスマイルの撮影が難しいこともあります。笑った際や表情が動いた際に歯茎がどのくらい見えるのか、上顎や下顎の状態や歯並びがどうか見る必要があるのですが、これまでのご経験などから笑顔を撮影することに心理的な抵抗を感じられる方も多くいらっしゃいます。静止しているところを撮るのは難しくないのですが、笑顔となると30枚撮影してやっと1枚と言うこともあります。それだけ、これまでに様々なお気持ちを抱かれていらっしゃるため、手術後に患者さんから前を向いて歩けるようになったと言われるととても嬉しく思います。治療が終わって、就職活動がうまく行ったとか、営業をしていて商談がまとまりやすくなったとか話していただけることもありますし、すれ違ったときに挨拶してくれる際の雰囲気が全く変わり別人のようになる方も多くいらっしゃいます。患者さんが治療によって自信を取り戻していく姿は本当に嬉しいです。
また、歯科医師としての経験も長いので、手術を行なった患者さんにお子さんがお生まれになるということも多く経験します。そのような場合、遺伝的な要因もありお子様が将来、顎変形症になるのではないかとご心配される親御様もいらっしゃいます。1、2歳と生まれて間もないお子さんを連れてご相談にこられることもありますので、そう言った場合には年に一回診察させていただきます。乳歯列期といって3歳頃に歯が生え揃うので、その時に受け口気味であったら簡単な矯正装置をお渡ししたりしています。親子で手術を担当させていただいた経験も多くあり、一家の皆さんと関わらせていただけることは印象深いですね。
外来でもお伝えしているのですが、顎変形症は必ず治ります。必ず綺麗に治りますが、根気が必要なこともありますので、一緒にコツコツ頑張りましょうとお伝えしていますね。治療を継続していく上で患者さんのモチベーションというのは非常に大事です。患者さんの悩みをしっかりお伺いし、噛みにくいのか、話しにくいのか、また顎の形がコンプレックスなのかちゃんと聞いて、一緒にゴールを目指していきます。
また、治療をご検討されている場合、なるべく早く治療された方がいいことも多いです。治療をするか悩まれて、5、6年経ってから受診される方もいらっしゃいますが、20代で手術をされた場合と、40代、50代になって治療を始めた場合だと、20代で始めた方が仕上がりが綺麗になりやすい場合も多いです。と言いますのも、40代、50代から始めると、どうしても歯周病や虫歯などで、仕上がりの状態が変化するのです。ですので、治療をご検討される場合はお早めに受診されるとよいかと思います。
顎関節症の治療では、サージェリーファーストを多く経験していけたらと思いますね。やはり通常の治療と比較して半分のお時間でできますので、患者さんも治療に臨みやすいのではないかと思います。
矯正の分野では、インビザライン矯正という、マウスピースによる矯正も行なっていきたいです。通常のワイヤーを用いた矯正治療では、やはり痛みがあります。ワイヤーに慣れてきても、ワイヤーを交換したらまた痛みが生じたり、ブラケットが外れたり、ワイヤーが口の中で当たったりと痛みや不快感があります。これと比較すると、マウスピース矯正はそれらの不快感が軽減されていますし、装置の取り外しが可能なので虫歯になりにくいという利点もあります。欠点としては患者さんが自分で取り外しできる為、なかには装置を持続して付けてくれない場合もあるということです。そのため、24時間、食事の時間以外は付けていただくと言う条件で行わないといけません。
この他、ご年配の方で習慣性顎関節脱臼といって、顎が外れたまま治療がなされておらず、口が開きにくいままとなってしまっている場合があります。特に高齢者施設などでは、ご面会の方などが見ても顎が外れていることがわかる場合もあります。そのような場合でも治療可能な場合が多いので、積極的に治療をしていけたらなと思っています。
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