※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
私は、学生の頃にラクビーをしていました。ラクビーは怪我の多いスポーツで、靭帯の損傷や外傷を身近でみてきたという影響もあり、外傷学を学びたいと思ったのがきっかけです。また整形外科は、小児期から高齢期までと幅広い世代に関われるのも魅力だと思いました。また、整形外科の中でも得意とする専門分野を作り、手術などを通して患者さんの生活の質を高められたらと思いました。
1984年に杏林大学医学部を卒業し、整形外科で初めての留学者として、ボストン大学整形外科学教室およびハーバード大学マサチュ-セッツ総合病院レ-ザ-センタ-、ジョ-ジア州ヒュ-ストンスポ-ツ治療財団へ海外留学しました。杏林大学医学部付属病院における新しい膝関節チームを作るため、最新の知識や技術を習得して後輩医師に伝えていけるように必死に学びました。
留学中に感じたことは、日本人医師の医療知識や技術は海外の医師にも負けていないということです。しかし、海外の先生を見ていて感じたことは、優秀な先生はとても熱心で、患者さんに対する思いも強いということで、文明よりも文化に衝撃を覚えました。また、1人の医師は1つの整形外科疾患のみを得意とするのではなく、整形外科領域をオールマイティに、バランス良く診ることができる医師が多いことが印象に残っていて、自分もそのようなバランスのとれた医師になりたいと考えました。
佼成病院は、膝関節、スポーツ外傷、上肢の骨折に強い病院であり、昨年の人工膝関節の手術件数は約50件、靭帯手術は約30件になり、年々症例数も増えてきています。
術式は膝関節手術だけでも、関節鏡下手術や人工膝関節単顆置換術、高位脛骨骨切り術、遠位大腿骨骨切り術、人工膝関節全置換術などがあります。手術の適応は、膝が曲がりづらく、歩行障害がある人、薬物療法やヒアルロン酸注射など保存療法で経過を見ていたが症状が改善されない人などです。
患者さんの症状に応じた手術を選択できるように、レントゲンやMRI、3DCTなどの検査をして治療方針を決めます。睡眠中に膝が痛くて起きてしまうほど症状が強い時は、人工膝関節全置換術の適応である場合があります。また、高齢であるために手術ができないと思われる患者さんがいますが、私は90歳代の患者さんに手術を執刀したことがあります。その患者さんは、「買い物が生きがいである」「台所に立って、旦那さんのご飯を作るのはずっと私でありたい」と言われたのです。何とかできないかと思い、循環器科の先生や麻酔科の先生にも相談をした上で手術を実施することができました。
また、身近な存在である母も膝の手術を行った一人です。手術をする前までは、夫婦一緒に歩いていても、父の歩くスピードに母がついていけない状況でした。それが、手術をした後は2人が並んで歩いている姿を見ることができて嬉しく思いました。母も手術前は、年齢を気にしたり、麻酔を怖がっていたりしましたが、今では足の痛みもすっかりなくなり、周りの人に膝の手術を勧めています。
手術の合併症として、出血、感染、術後の痛みなどがあり、今でも学会で医師がディスカッションを重ねる重要な項目になります。しかし、症例数も多くなり、昔に比べて手術に伴う出血量が少なくなり、麻酔のコントロールや手術手技で手術直後の痛みを軽減することが可能になってきました。
私は、膝の人工関節の開発に携わりました。膝の人工関節は元々の人間の骨よりも重いため、手術をすることで、膝の痛みが消えても、足が重いと感じるようになってしまう人がいるのは辛い事だと思ったからです。
医療製品は海外の製品を使用することが多くありますが、日本人の骨格は、海外の人と違うため、日本人にもっと合うサイズの人工膝関節はないのかと疑問を感じていました。その疑問は、3DCTが導入された際に改善できると直感しました。3DCTが導入されて、まず自分の膝で試しにCTを撮ってみたのですが、たった30秒で自分の膝を3D画像にできて、骨の長さや骨の形態を調べられるなど、正確なデータを集めることができました。せっかくこのような正確なデータが取れるのであれば、海外の人の骨格に合わせて作った製品より、日本の製品の方が患者さんに合うはずだと、日本人の体格に合った人工膝関節を細かくこだわり製品化しました。
その他には、膝前十字靭帯再建手術に使用される製品の開発に携わりました。手術に対して、昔の治療では靭帯を固定するためにチタン製のスクリューを使うことが多かったのですが、その方法では、再建をする時に欠損が残ってしまうリスクがありました。留学中に出会った製品には、欠損のリスクを無くすことができる、吸収性の素材を使ったスクリューがありましたが、輸入が規制されていたので難しく悩んでいました。どうにかしたいと思い企業と共同で開発をすすめることで、その製品を形にすることができて、患者さんのリスクが減ることにも繋がったので、大変でしたが関われて良かったと思います。
手術後は、今まで以上に歩く姿勢に気を付けて欲しいと思います。手術後に骨が安定するまで一本杖を使う場合も多いと思いますが、一本杖を使うことで逆にバランスを崩している人も多く見かけます。
杖の種類も沢山ありますが、私は山登りに使うウォーキングポールを改良した杖を作りました。今まで杖のデザインは、杖をついたときに重心が崩れてバランスの悪いものや、持ち手が握りにくいもの、高さの微調節ができないものでしたが、それを改良してリハビテーション時に効果的なデザインにしています。
直接手で患部を触り、どこが痛いのか、どこの組織が硬くなっているかを見極める事を大切にしています。人工関節の手術後、画像上は良くなっていても、膝の痛みを主張する患者さんがおられます。手術をすることで関節は治ったかもしれませんが、膝の周りにある組織が硬いままであると痛みが続く場合があります。現在は痛みのポイントを触診して、高周波治療器を用いたサーモマッサージを行い、組織をほぐすようにしています。
私のことを家族だと思って、手術前も手術後もつつみかくさず話をしてください。患者さん一人一人に対して、問題を解決できるよう一緒に解決策を考えていきたいと思います。
当院の整形外科の体制が、私が整形外科部長になるとともに大きく変わりました。現在5名の整形外科医と大学との連携で手術や外来を行っています。今後も教育に力を注ぎ、どんどん医師を育てていきたいと思います。
また当院の特有として、地域包括ケア病棟を設けています。地域包括ケア病棟とは、手術などの急性期治療を経過し、在宅復帰へ向けて退院の準備をする患者さんや、地域にお住まいの方や在宅療養中の方が、比較的軽い症状ながら入院治療が必要となった場合等にご利用頂く病棟です。国の治療方針で、入院日数が短期間になってきていますので、手術後の患者さんやその家族にとって安心を提供できるよう、この病棟を通して、地域に貢献いていきたいと考えます。
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