※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
私が医師を志したのは、叔父が精神科医であり、医師という職業が身近であったということ、また、医学への携わり方にも研究や臨床など様々な領域があり臨床で働くとしても大病院や地域の診療所など様々な選択肢があるので、目指してみる価値があると思ったことがきっかけで医学部を受験しました。
そして、大学時代に入っていたテニス部で足首の靱帯を痛めて整形外科の先生にお世話になったことや、先輩から体力勝負の外科を勧められたことから、自然と整形外科を志すようになりました。当院は1980年に、当時は確立された検査方法やMRIがない中で、日本で初めて膝の前十字靭帯損傷を診断・治療した中嶋先生という先生が標榜した日本で初めてのスポーツ整形外科です。スポーツ整形外科という領域を専門とするようになったのは、この中嶋先生の下で学んだことが大きな理由ですね。
整形外科とスポーツ整形外科の大きな違いは、疾患によって支障が出るタイミングにあります。みなさんはぎっくり腰になったり、肩や膝などを痛めたりして日常生活に支障が出ると整形外科を受診されると思います。整形外科ではこのような痛みをなくして、元の日常生活を送ることができるように治療を行っていきます。
一方で、スポーツ整形外科では日常生活に支障がなくてもスポーツを行う際に痛みや違和感があり、これまでのようにスポーツができない方の治療を行っています。例えば、膝の中にある前十字靭帯を損傷したとしても、歩くことや走ることに支障はないので日常生活で困ることはありません。ですがスポーツをすると、膝をひねる動作が出来なくなるため、元のパフォーマンスを出すためには手術を行わなければなりません。スポーツ整形外科では、このような患者さんの診断や治療を行っております。
当科には、膝や肩をケガしたり痛めたりした患者さんが多く受診されています。手術件数に関しては、昨年は膝前十字靭帯再建術を年間400件以上行っており、これは日本で最も手術実績がある病院の1つになります。熟練した技術を持つ医師の手術を受けたい、しっかりとしたリハビリを受けたいという思いから、当院での手術を希望される方が多いようです。肩の手術も年間160件以上行っておりますが、肩を専門とする医師は全国的に少ないため、スポーツをしていない患者さんも多く受診されております。そのなかで特にスポーツ選手の脱臼に関しては、2つの術式があり一長一短があるので両方説明させていただき患者さんに選んでいただいております。従来からあるBristow法という脱臼の手術にオリジナルに改良を加えた術式では、サッカーJリーグの選手でも手術後3か月で復帰しました。
受診される患者さんの年齢層は、小学生からシニアの方まで幅広く、神奈川や東京をはじめ埼玉、山梨、群馬など関東全域から来られています。必ずしもプロのアスリートばかりがスポーツ整形外科を訪れるわけではなく、スポーツ愛好者の方もいらっしゃいますよ。また、他院からの紹介やインターネットを見て受診される方もいますが、プロチーム内や、学校の部活動内での口コミなどで当院のことをお知りになって受診される方が多いですね。当科は歴史が長いので、以前お母さんの手術をしており、娘さんの手術もしたというケースもありました。
まず、当科の強みはスポーツ特有のケガに関してはどのような部位・ケガでも必ず診断をつけて治療方針を明確に示すことが出来ることです。膝や肩など当院が専門としている領域に関しては当院にて手術を行いますし、手首や足首など他施設の方がより専門性が高いと判断したものについては、信頼している医師のもとへの紹介が可能です。
また、手術の中で一番多く行っている膝前十字靭帯再建術は、再断裂率が低いと自負しています。アメリカの報告では再断裂率は7~8%程度といわれていますが、当院はこれまでに行った5,500件において再断裂率は3.4%という実績があります。
この理由には、スポーツ復帰までの期間が挙げられます。通常では5カ月程度でスポーツへ復帰という施設が多いようですが、実は移植した腱はくっつくのに5ヶ月程度かかると言われているため、6か月程度で復帰すると、再断裂を起こすことがあるのです。そこで、当科では膝前十字靭帯再建術の入院期間は約10日間で、術後2ヶ月程度でジョギングを開始、約半年(プロスポーツ選手では約8ヶ月)をスポーツ復帰の目安としています。復帰にかかる期間は他院より長くなりますが、結果として再断裂率を低くすることができています。
次に、病院としての強みは20年前からスポーツ専門の理学療法士が在籍していることです。理学療法士とは2週間に一度、定期的にミーティングをしていますが、当院での勤務年数が長いベテランの方が多いので、密な連携を取ることができています。普通の病院では考えられないほど広く、充実したリハビリ施設もあり、リハビリの評判が良くて当院を選んでくれる患者さんもいますよ。
手術の精度を高めることです。例えば、膝の前十字靭帯の手術は、膝の上側(太もも側)と下側(すね側)の二か所に腱を通すためのトンネルをあけます。膝の大きさや形は人それぞれ異なりますので、どのような患者さんに対しても、適切な位置に正確にトンネルをあける熟練した技術と知識が必要になります。また、手術時間が短いほど、術後の痛みや腫れが少なくなるため、手技の精度を高めて手術時間を短縮することは大切です。これはもちろん肩の手術でも同じことがいえます。このような技術を習得するために、先輩の手術を見学したり、海外も含めた多くの手術動画を見たりして学ぶ努力をしてきました。
また、患者さんからは、”いつスポーツに復帰出来るのか”、”どのくらい良くなるのか”、”患部外トレーニング(手術部位以外の場所のトレーニング)”はいつから可能か、といったスポーツ整形外科ならではのご質問がよくあります。入院期間や費用、手術の痛み、リスク、松葉杖の使用期間について聞かれることも多いですね。このような質問にも個別にきちんとお答えするようにしています。
あまりかっこいいとは言えないかもしれないですが、”誰よりも真剣にやる”ことを大切にしています。私は英語があまり話せなかったのですが、50歳を過ぎてから勉強をはじめると決心し、習得することができました。「あの時こうしていればよかった…」という後悔をしたくないので、「いつから始めても遅くない」を人生訓にして、部屋にも貼っていますよ。
今後の展望としては、新しい医療技術も併用することで術後の経過を改善していきたいと考えています。スポーツ整形外科の分野は成熟してきており、手術時間や復帰までの期間の劇的な短縮はこれ以上難しいのではないかと思っています。一方で、再生医療の分野では自己治癒力をサポートする多血小板血漿(PRP)治療など新たな医療技術開発が進んでいます。このような分野とコラボレーションして術後の経過を改善し、スポーツ復帰にかかる期間を短縮することができればと思っています。
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