※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
手先の作業が好きなので、外科系の道に進むことは医学生時代から決めておりました。外科系の中でも産婦人科を選んだのは、学生時代の臨床実習で生殖医療の世界に惹かれたからです。胚のシャーレが並ぶ胚培養室の独特な光景や、外来で見た妊娠8〜9週の胎児のエコー画像に、どこか心に響くものがあったのですよね。
現在は、産婦人科医として不妊治療から帝王切開まで幅広く生殖医療に携わらせて頂いておりますが、未来を託すことができる子どもの誕生に携わることができるのは、やはりとても嬉しいですよ。「おめでとうございます!」と言うことができる手術なんて、数ある手術の中でも帝王切開くらいでしょうね。
リプロダクションセンターでは、総合病院として体外受精と内視鏡手術の両輪で高い不妊治療実績を保つことを非常に大切にしています。
子宮筋腫などの器質性疾患により子宮が変形するなどしていると、いくら体外受精を行っても妊娠に至らないこともあることから、不妊治療では体外受精だけでなく内視鏡手術も治療のオプションとして同時に進めることができる環境が必要となります。一般的に、総合病院は内視鏡手術は可能であっても、体外受精に重点を置くのが困難なことが多いです。一方で、当センターは最新鋭の機器を備えた胚培養室などの整った医療設備があるとともに、技術に優れたベテランの培養士が在籍しておりますから、総合病院でありながら不妊治療を専門とするクリニックに勝るとも劣らない体外受精の成績を保持できています。
不妊に悩む女性にとって時間は非常に貴重なものですから、一人ひとりにあった適切な不妊治療を効率よく選択して頂くためには、体外受精と内視鏡手術のどちらが欠けていてもならないのです。
不妊症の原因のうち最大の要は加齢によって卵巣機能が低下することです。他にも不妊症の原因には、卵管閉塞、子宮筋腫、子宮内膜症などの器質性疾患もあるのですが、これらは手術で解決できることも多いです。しかし、年齢だけはどうしようもありません。当院で不妊治療をされている患者さんの平均年齢は約40歳で、30代半ばから不妊治療を開始されている患者さんが多いです。不妊治療開始年齢が遅いという現状は、平均初婚年齢が約30歳となった昨今では妥当なものでしょう。社会が成熟し、女性に求められるものも多くなっていますから、この現状は受容せざるをえないわけですが、ヒトの生殖年齢は昔から大きく変わっておりません。30代の不妊治療は奏功することが多いですが、40歳以降では妊娠しても約半数が流産してしまいますので、年齢は非常に悩ましい問題ですね。
まず、治療の順番についてお話しますと、実際には最初の治療法としてタイミング法(※排卵期に合わせて性交を行なう治療法)は選ばないことが多いです。当院を受診されるみなさんのほとんどが、すでに家庭内でタイミング法を試されていて、1年くらい続けてみたけれども子どもを授かることができず、その結果として医療機関を受診されるわけですから、治療は人工授精(※排卵期に合わせて人工的に子宮腔内に濃縮した精子を注入する治療法)から始めることが大半です。
人工授精から体外受精(※卵子と精子を受精させ、受精卵を2〜5日間体外で培養してから子宮に移植する治療法)に切り替える時期についてですが、3〜4周期にわたり人工授精に挑戦してみて、それでも妊娠しなければ体外受精に切り替えていきます。治療をできない月もあるかと思いますので、3〜4回の人工授精には半年程度の期間が必要となることが多いですね。
体外受精においては、卵巣機能が保たれていれば基本的には何度でも挑戦することができますが、不妊治療をだらだらと行ってしまうとご夫婦は精神的に疲弊してしまいますから、できれば1年で決着をつけたいところではあります。体外受精では、質のよい卵子を凍結胚にまわすことができるほど十分な数の卵子を初回の採卵で確保できた患者さんは、早期に妊娠に至ることができる傾向にあります。一方で、採卵できたとしても質のよい胚が全く育たない患者さんや、43歳以降で卵巣機能が非常に低下している患者さんにおいては、卵子提供や特別養子縁組などについてもお話しさせて頂くこともあります。
まず、体外受精は、採卵し、受精させて胚を培養してから子宮に胚を移植するというプロセスをとるのですが、1回目の採卵で良質な胚を複数培養できた場合には、移植されなかった余剰分の胚は凍結保存され、2回目以降の胚移植に回されることとなります。
そこで、凍結胚を移植した方が妊娠率が高い理由として考えられることは2つあります。まず1つ目には、採卵直後の最初の胚移植時に比べると、凍結胚を移植するとき、すなわち2回目の胚移植のときには体内のホルモンの乱れが小さくなっていることが挙げられます。採卵を行うときには卵胞の発育を促すために多くの排卵誘発薬を投与しますから、ホルモン分泌が非生理的となり、子宮内膜が着床に適さない状態になってしまいます。2つ目には、一般的には冷凍保存できる胚というのは、良質なものに限られているということです。採卵してすぐ移植するという場合には、厳しい胚発生の状況での胚移植も含まれていることがありますからね。
まず、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科良性疾患の治療についてですが、当院を受診されてから手術に至るまでの期間はどの婦人科良性疾患においても1ヶ月程度です。子宮筋腫では術後4か月程度は妊娠を避けなければいけませんから、その間に急がなければならない患者さんについては採卵凍結を行い、自然トライをされる場合には術後4か月後から半年程度頑張って頂きます。子宮内膜症術後の患者さんの多くは、術後半年以内に妊娠されることが多いことから、術後すぐに自然妊娠に挑戦して頂き、半年程度の自然トライまたは人工授精によって妊娠できなかった場合には、体外受精に移行したほうがよいと考えています。つまり、子宮筋腫や子宮内膜症などがあって手術を行った場合は、術後半年~1年程度で妊娠に至らなかった際に体外受精への移行を検討します。
勤務先の理解・協力を仰ぐにあたっては、不妊治療に初めて臨まれる方については、仕事量が少なくなる時期を見計らって、前もって月経予定日から2〜3週間程度の休みを確保しておくということを考えてみてよいかもしれません。月経開始から2〜4日おきに4〜5回程度受診して頂ければ採卵ができることや、最初の採卵は非常に重要であることを考えると、早めに上司に休暇の取得をお願いしてみることをおすすめします。今や6組に1組の夫婦は不妊症に悩まれている時代ですし、徐々に周囲の不妊治療への理解・協力も得られやすくはなってきているのではないでしょうか。
やはり“丁寧さ”ですかね。私はできるだけ患者さんの話を丁寧に聞き、患者さんに納得してもらえるように伝えるということを大切にしています。患者さんに怪訝な顔で帰られてしまうのが、私は嫌なのですよね。また、そういった診療を行うためにスタッフが働く環境やスタッフ間のコミュニケーションも大切にしています。やはり各スタッフが仕事に対する充実感・やりがいを持っていなければよい診療はできませんからね。このことは、巡り巡って当院の理念である“すべては患者さんのために”につながるのではないかと思っております。
まず、不妊治療に望まれる女性に対してですが、不妊治療に取り組まれている女性の1割は最終的に妊娠することができないという現状もあり、治療を進めてもなかなか妊娠まで至らない場合には焦燥感が募って心のゆとりを失ってしまうこともあるかと思います。子どもがいない人生が豊かじゃないかといえば、全くそうではありませんから、視野を狭めすぎないよう色々な世界・価値観に触れてみてほしいと思っています。文化的な活動や運動など、不妊治療だけにとらわれないよう色々な楽しみをみつけて心のゆとりにつなげてみてください。
ご主人には、「子どもができたら、絶対に人生変わるよ」と伝えたいですね。日本では育児の大変さばかりが前面に押し出されてしまうことの方が多いですが、育児の楽しさ、素晴らしさをもっと知って頂きたいですね。
若い世代の女性には、妊娠に備えて3つのことをおすすめしたいです。1つ目には、麻疹・風疹ワクチンを打っておくこと、2つ目には、妊娠を考えたときには葉酸を摂取すること、3つ目には、子宮がん検診やブライダルチェックを受けることです。これらは先天異常や不妊症の予防において効果のあるものですから、是非心がけてほしいです。
また、ご自身のキャリアとの兼ね合いで妊娠・出産の時期が遅くなる可能性がある女性は、ピルのメリットとリスクを理解したうえで、卵巣の加齢を抑えるためにピルの内服を考えてみてもよいでしょう。ただし、ピルを服用しているからといってコンドームなどの避妊具を使用せずに性交するとクラミジア感染症や、それに続く卵管閉塞を発症し、不妊症になってしまうこともありますから注意しましょう。
とはいえ、30代後半以降の不妊症の患者さんを多く診ている産婦人科医としては、やはり30歳までに妊娠・出産の準備を開始するのが理想なのではないかと考えています。
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