
小学生の頃から漠然と医師になりたいと思っていました。近所の小児科のお医者さんが優しかったことや、子供の頃に読んだ本の一文が印象深かったこと、手塚治虫が好きだったことなど様々なことが影響していたのだと思います。
私が医学部を卒業した頃は、医学部を卒業後にすぐ専門を決め、どこかの医局に所属するのが当然の時代でした。しかし、私は卒業後すぐに専門を決めることにためらいがあり、どの医局にも所属せず内科や外科、救急など様々な科の研修を受けることができるスーパーローテートという仕組みで研修を行なっていた武蔵野赤十字病院で2年間研修医としての経験を積みました。現在の初期臨床研修の制度はこの様に複数の診療科を研修することを必須としていますが、当時はこのような施設は日本に数カ所しかありませんでした。
研修では様々な科で研修を積むので、末期がんの患者さんと接する機会もありました。当時は現在と違い、患者さん本人にがんの告知を行わないこともあったので、告知をしていない患者さんとお話をする際は、自分が嘘をついているように感じてしまい悩みました。そんな時、当時の精神科の部長が末期がん患者の治療に精神科医師が参加する意義についての論文を発表されました。亡くなると言う結果は同じかもしれませんが、それを受容し穏やかな最期を迎えることができるよう関わっていけると言う点で精神科は素晴らしいと思いましたし、当時の自分の悩みに答えを見出してくれたような気がしました。
もともと学生時代から学問としての精神科には興味を抱いていたこともあり、精神科の道を選びました。
研修終了後、東京医科歯科大学の大学院に進学し、臨床の傍ら研究にも携わるようになりました。その頃に、薬物療法でなかなか改善しない患者さんに対して、電気けいれん療法(ECT)と言う治療を行うことがありました。電気けいれん療法を行うと、薬物療法で改善しなかった患者さんでも、数日後には徐々に症状が軽快するということがあったのですが、詳しい作用機序を調べようと医学書を読んでも自分が納得する答えは得られませんでした。治療を行う前には患者さんや家族の方に説明し、同意を得る必要があるのですが、私自身、なぜ効果があるのか理由をきちんと知らないままに説明することは無責任ではないかと思うようになりました。患者さんの状態が改善する以上、脳の中で何らかの変化が起きていることは間違い無いので、その変化を捉えたいと考えていたところ、放射線医学総合研究所にて研究をする機会を得て、電気けいれん療法を行った際の脳内の神経受容体の変化の研究を開始しました。最初に出した論文は患者さんの数が不十分ということで一旦、棄却されてしまいましたが、患者さんの数を集めて再度論文を提出したところ、無事に発表できました。電気けいれん療法の全容を解明するには到底及びませんが、一定の結果は得ることができましたし、その後、イギリスの医学書にも引用されて嬉しかったです。
当院は新宿御苑前と商業地域であり、オフィス街でもある地域に位置しています。そのため、仕事のストレスを抱えた方が多く、年齢としても30〜40代の方が多いです。疾患としては適応障害の方が多いですね。
適応障害は、職場環境の変化等のストレスに適応しきれずに様々な不調が生じるものですので、治療に際してはストレスの原因と距離をとる等の環境調整が大切です。仕事で悩まれている方の場合、職場を離れることが必要となる方も多いですが、すぐに行えるものではないので一時的に気持ちを落ち着けるお薬を服用していただくこともあります。お薬を飲むとなると、薬への依存が生じてしまうのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、内服する必要のない方にはもちろん処方しませんし、その方の症状に合わせて調整させていただきます。また、当院では薬物依存症の方を診察することもございますので、こちらから敢えて依存させるようなことはしませんよとお伝えすることもあります。
診察時間は30分〜1時間とらせていただくこともありますし、症状が安定していて状況も把握している方の場合は、手短に終わらせていただくこともあります。当院はカウンセラーの方も日替わりで常駐しておりますので、カウンセリングだけ受けに来られる方もいらっしゃいます。
統合失調症などの精神疾患を抱えた方の職場復帰は、骨折した方の職場復帰とは異なります。場合によっては、職場で腫れ物に触れる様な扱いを受けてしまい、治まっていた症状が再燃してしまうことも少なくありません。そうした事態を避けるためにも、社会的な偏見を少しでも取り除いていきたいという思いがあり、2002年から東京藝術大学の方達と共同での活動(EPOCH making project)を始めました。この活動は地域医療と表現活動を結びつけることで精神医学の認知度を上げることを目的としたプロジェクトです。例えば、病院の敷地内に誰でも入ることが可能なアートスペースとしてビニールハウスを作り、医療機関の垣根を低くしていく取り組みなど、様々なワークショップやシンポジウムでの講演などを続けてきました。日本医科大学付属病院に勤めていた頃は、若手のアーティストの方に来ていただき病棟内でパフォーマンスをしてもらったこともあります。患者さんにも好評でしたし、活動を続けていくうちに他のスタッフの方も率先して催し物を開いてくださるなどの変化が生まれていきました。
こちらのクリニックを開業後も、こうした活動は続けていきたいと思い、診療時間外に演奏会や映画上映会、トークショーなどどなたでも参加できる催し物を開催しています。
私の活動をご覧になって、芸術療法ですか?と質問されることがあるのですが、私の活動はあくまでも社会に対しての啓蒙活動であって、芸術療法ではありません。しかし、結果的に患者さんにとっても良い刺激を与えることができているのではないかと思っています。
患者さんには写真や音楽のワークショップを行うこともあります。また、最近では待合室にハーブを植え、皆で育てるコーナーを設置したり、オススメの本を教えあう掲示を設置したりと患者さん同士が気軽に交流できるコーナーも設けています。待合室には本が沢山置いてありますので、今後、貸出し制にすると良いのではといった案も出ており、そういったことを患者さんたちと考えていくのも面白いかなと思っています。
活動や交流を通じて、こんな生き方もあるのか、良い意味で適当で良いのかなと思ってもらえればと思っています。
この様に型にはまらないクリニックですので、何かあればお気軽に相談に来てください。型にはめることなく、その方自身を理解していけるよう、こちらも話を誘導しないよう柔軟にお話を伺っていきたいと思っていますので、患者さんには自由にお話していただきたいと思っています。
西條クリニックは沢山の本に囲まれ、誰かのお宅に訪問をした様な柔らかく暖かい空気に満ちていましたし、診察室の大きな窓からは新宿の町並みを一望することができました。先生は、患者さんだけではなく社会全体に多様性のありかたを考えるきっかけを与えてくれるような活動をされており、インタビュー中もこちらの質問に対して終始穏やかに耳を傾けてくれました。
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