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私は普通の医師よりも遅く医師になっています。高校では、熊本県の進学校だったのですが、私立文系進学のコースにいました。そして大学では写真を専攻しました。しかし、大学4年生のときに、写真の世界観が自分の思い描いていたものと違うと感じ、その時に熊本で開業医をしていた父が、医師になるのなら応援するということで、もう一度受験勉強をして医学部を目指しました。とはいっても、先ほどお話したように高校生の頃は私立文系進学のコースであったため、高校3年分をやり直すような気持ちで医学部を目指すことになりました。そして帝京大学医学部に合格したのですが、その時で既に同級生より7つも歳上でしたね。
臨床の現場に入った当初は、救急や脳神経外科などに興味があったのですが、当時の先輩医師に麻酔科なら重症な患者の管理も学べるからと言われて麻酔科を選びました。麻酔科医として働いていた時期に父と友人をがんで亡くしました。その時の亡くなり方があまりにも人間の尊厳とはかけ離れているように感じ、悔しい想いをしました。父は肝臓がんと宣告されてからたった3ヶ月で自分が医師として研修を積んだ病院で亡くなりました。父はホスピスという概念を知らず、ずっと痛い痛いと言っていました。私は当時痛みを訴える父に座薬を入れたこともありましたね。
父や友人のがんでの死を経験し、尊厳のある死とは何か、どうすれば人間らしい「死」を迎えられるのだろうかと考えました。それからホスピスについて勉強し始めましたね。当時はまだホスピスや緩和ケアという概念が乏しい時代だったので勉強にも苦労しました。尊厳のある死を迎えるサポートをする、在宅での看取りをするために、必死で24時間365日働きました。
当院では開院当時から自宅での看取りには「本人の覚悟」、「家族の覚悟」、「医療者の覚悟」が大切であると提唱してきました。まず、最も大切なことは本人が「どこで死を迎えたいか」を明確にすることです。そして、病院などから在宅クリニックに移行する際、我々は家族にも本当に自宅での看取りを希望されているか覚悟を問います。そして、本人やご家族も在宅クリニックに移行された場合に本当にその在宅クリニックが自宅で看取りをしてくれるのか今度は医師に覚悟をきいてみてください。いざ最期を迎えるというときに病院へ行ってください、などと近年では医療者の覚悟が足りていない場合も多く見受けられます。それでは希望される自宅での死を迎えられません。
また、当院でも多いのですが、家族の覚悟というものが本人の覚悟とかけ離れていると感じる時があります。がんと宣告されてから治療を受けてきて、人生の最期というときに覚悟ができているのは実はご本人です。本人は延命措置、すなわち人工呼吸器は装着して欲しくない、そのまま逝きたいと望んでいるのに、家族が状態の変化に驚いて救急車を呼んでしまうことがあります。
救急車を呼ぶということは、延命措置を希望したと捉えられます。もう亡くなるというときに、救急車で病院に運ばれ、蘇生を受け、人工呼吸器に繋がれます。病院も救急車も一旦、蘇生や延命措置が始まれば、やめることはできません。結果、思い描いていた尊厳のある死は迎えられないこともあります。老齢で痩せも進んでいる方が、胸骨圧迫(心臓マッサージ)などの延命装置をうけるとどうなるか想像できるでしょうか。本人の覚悟と家族の覚悟をすり合わせるというのはそれほど大事なのです。
これは私がとてもお世話になった方の話なのですが、その方が肺がんで最期というときに、ご家族が救急車を呼びました。私も知らせを聞いて病院に行ったのですが、その方は人工呼吸器につながれていました。そして私の顔をみるなり何度もジェスチャーで管を指しながら下から上に動かし、そして両手で合掌するようにして拝むのです。その姿をみたときは本当に悔しかったです。
9割の患者さんご家族からお礼のお手紙をいただいたりしていますね。当院は紹介されてくる地域も様々であるため、訪問範囲も広いです。どうやら口コミで広まることもあり、ある地域では一人をお看取りしたあと、その近所の患者さんも看取るということもありました。医師との出会いも人と人との縁ですから、患者さんが相性が良いなと思える医師と出会えたらいいなと思います。
これまで在宅での尊厳のある看取り、人間らしい「死」を迎えられるように尽力してきました。そしてこれからも緩和ケアを広めていけるよう夢は持ち続けていますよ。私はもうすぐ66歳になりますが、両親を66歳で亡くしたこともありとても感慨深い年齢です。日本は高齢化が進んでいます。立川地域で緩和ケアや看取りをしっかりできるようにしていきたいです。そのためには責任をもって看取りができる医師も育てたいですね。
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