私は昭和63年に長崎大学医学部を卒業後、長崎大学病院第二内科へ入局しました。内科へ入局した理由は、医学生の頃から離島医療に対して興味があったのですが、離島医療を行うためには内科を一通り診察できる必要があったからです。私が入局した第二内科では、呼吸器、消化器、循環器などに力を入れており、オールラウンドに疾患に関われる環境でした。内科についての研鑽をある程度積んでからは、消化器グループに所属し、中でも特に肝臓疾患を専門にしていたので、当時有名な先生がいらっしゃったオーストラリアに研究留学をしました。
そして、2年間の留学から帰国したときに、大学病院へ戻るという選択肢もありましたが、離島に行きたいという目標が捨てきれず、留学後は離島医療へ進みました。人口2,000人程の小さな島でしたが、自分の夢も叶い、島での医療を知ることができて良い経験となりました。
離島医療の後は、ホスピス緩和ケアを行うことにしました。大学院の時に病理解剖に携わっていたこと、大学病院で消化器内科の診療をしていた時は、がんの患者さんへの緩和ケアの重要性について日々考えていたこと、離島では高齢化もあり死の現場に関ることが多かったこと、などがそのきっかけです。当時ホスピス緩和ケア医として働いていた病院では、一般内科とホスピス緩和ケアの2本柱で診療を行っていました。そして、ホスピス緩和ケアをしていく中で、ある大学病院の心療内科を立ち上げられた先生から心療内科について教えていただいたことがあり、「心も診ることができる内科医」を目指すようになりました。
そこで、精神科の病院に内科医として入り、精神科のカンファレンスにも参加するようにしました。そうしていく中で、人の心は千差万別なのに何で同じような病態になるのか、など興味がさらに強くなりました。それが精神科医としての始まりだったように感じます。
このクリニックを開業する前に勤務していた病院での話ですが、病院の方針で1時間に5〜6人の患者さんを診なければいけませんでした。患者さん1人につき取れる時間は10分が限度で、薬を処方して、という繰り返しで、心の治療まで踏み込むだけの十分な時間がとれないのが課題だと思っていました。
そのようなことを考えていた時、私の診察に過食症(※摂食障害の一種)の患者さんが来られました。その患者さんは、様々な薬を試してみても過食が止まらない状況でした。私はどうすればその患者さんが過食症を治すことができるか調べ、治療法の1つとして対人関係療法(※家族やパートナーなど「重要な他者」との「現在の関係」に焦点を当て、感情を指標に周りの状況に変化を起こすことで病気を治していく治療法)に出会いました。このとき、対人関係療法を専門とする医師から対人関係療法について学んだ後は、病院に所属するのではなく、対人関係療法を中心にしたクリニックを作りたいと思ったのが開業のきっかけです。
私の対人関係療法専門外来(摂食障害専門外来)では摂食障害の患者さんを中心に診察を行っていますが、精神科全般を診る外来には薬物療法を専門とした医師もおりますので、うつ病や睡眠障害などの患者さんも診察しています。
摂食障害の患者さんは、男性より女性の方が多く、摂食障害を起こす原因となった問題は患者さんごとに変わってきますが、治療においては自分で自分のことを理解できるようになるために対人関係療法をメインに行っていきます。対人関係療法では、「自分との関係を改善する」「行動の仕方を変えていく」「他人との関係を改善する」ために、自分の心をふり返り、心の中で何が起きているのかがわかるようになることを目標に、患者さん一人一人に合わせて治療方針を一緒に考えて行きます。対人関係療法の最終目的は過食や過食嘔吐がなくなり、かつ症状の再発が起こらなくなることです。
日本で初めて復職後も患者さんに対するサポートを行うリテンションプログラムの提供を開始することとなったのが当院です。当院では一般外来で、気分障害、うつ、不眠、心の問題が原因で働くことができなくなった人リワークプログラムを通して復職支援をしているのですが、復職をゴールではなくスタートと捉えて、復職後もリテンションプログラムを通してフォローしていくようにしています。
従来のやり方では、復職後は一般外来扱いになり、薬のみのサポートになってしまうため症状が再発する患者さんがおられます。そのため、それをさらに補うために当院ではリテンションプログラムを行うこととしました。リテンションプログラムではどうすれば再発防止できるのか、リワークプログラムを修了後、復職した現場でうまく行かなかったこと事例を基に、社会リズム療法を基にした生活習慣の振返り、認知行動療法、アサーショントレーニングなどのアドバンスプログラムを指導し、学んだことを自分で実践できる力にしていき、心地よく働き続けることの出来る自分へと変わっていくことができるようにサポートしています。復職してからがスタートですから、考え方や行動のパターン・視野を広くしていただくことを目標としています。
クリニックに電話していただくと受付で相談内容をお聞きし、摂食障害関連であれば専門外来のスタッフがお電話で話を伺い、問診票を記入していただいてから初診の予約をお取りします。ちなみに、初診の際には2時間ほどお時間をいただければと思っております。「2時間も?」と思われるかもしれませんが、初めて出会った人の人生を聞くわけですから、初診の時にある程度の方向性や治療目標、どこから手をつけていけばよいかを決めていきます。この摂食障害が今続いているのはなぜなのか、という症状の維持因子を見つけ出さなければいけないので、一人一人のライフストーリー聞くことが大切になってきます。
治療目標や治療方法に同意していただければ、2回目の診察からは本格的な治療を開始いたします。通院は合計で約20回を目安にしています。基本的には、毎週1回の通院をお勧めしていますが、中には仕事で都合がつきづらいという方もおられます。そのような患者さんにも治療プログラムを臨機応変に合わせて診察しています。
現在、少しずつではありますが摂食障害の子どもに対して、親が治療者の代わりとなって子どもを支援するモーズレイ・モデルによる家族サポートを取り入れています。これは今までの摂食障害治療の拡大版ともいえまして、もっと広めていけたらと考えています。
また新たな目標としてあるのは、カサンドラ症候群へのサポート体制の強化です。カサンドラ症候群とは発達障害のある夫や妻と情緒的な相互関係の構築が難しいことが原因で、その配偶者やパートナーに生じる心身的な症状のことです。会社では仕事もよくこなし社員から人気のある人でも、家庭の中ではこだわりが強く、パートナーをコントロールしようとし、言葉の暴力などにより、パートナーに自律神経症状などの身体症状や、不安や抑うつ状態などの精神症状がでるような場合がカサンドラ症候群の一例です。しかしここで問題なのは、家の外では症状が出ないため、周りの人には理解されにくく、問題を一人で抱え込んで、自分が悪いのではないかと悩んでいらっしゃる人がいるということです。そんな方をサポートできる体制を当院に作れたらと考えています。
私は研修医の頃から恩師に「患者さんを家族だと思え」と教わってきました。そのため、患者さんと向き合った時、患者さんが体験した出来事や体験を通して考えたこと、感じたことを自分の頭の中で再現するということをやっています。同じ体験をして、見て、聞いて、こんな解決法もあるかもしれないね、と指し示してあげられる存在でありたいと思っています。
私の元に来られる患者さんは「クリニックに行っても薬を出されるだけ」、「専門ではないから他のクリニックへ」などといったように、これまで満足に治療を受けられなかった経験をお持ちの方がいらっしゃいます。医療機関はどこも一緒だと思われず、勇気を持って当院に連絡してくださればと思います。
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