
私の父は千葉で開業医をしていたのですが、私自身は子供の頃、新聞記者になりたいと思っていました。新聞社に手紙を書いて見学に行くほど新聞記者に憧れていたのですが、中学生の時に父から「医者の仕事は文系なので、医者になった方が力は伸びるよ。」と、医師になることを勧められました。父が開業医をしていたとは言え、当時は医師の仕事の内容についてよく理解していなかったのですが、現役の医師がそう言うのであれば、と思い医学部へ進路を切り替えました。今思えば父は私を医者にしたかったのかもしれませんね。
医学部を卒業後は聖マリアンナ医科大学の第一内科に入局しました。第一内科には腎臓内科、リウマチ・膠原病内科、消化器内科、内分泌内科、呼吸器内科と班に分かれており、リウマチ・膠原病内科班に聖マリアンナ医科大学難病治療研究センターの初代センター長も務められた水島 裕先生がいらっしゃいました。水島先生は当時から群を抜いて頭の切れる先生で強く憧れました。
当時、これまで原因のはっきりしなかった病気の幾つかが徐々に免疫系の異常によるものだと判明してきており、免疫学はこれからの医学の中核となっていくと感じていました。治る病気と考えられていなかった関節リウマチなどの病気も今後、免疫学の発展によって治療可能となるのではと考えており、リウマチ・膠原病内科に興味を抱いていたこともあり、リウマチ・膠原病内科に入ることにしました。
リウマチ・膠原病内科に入ってから、水島先生が難病治療研究センターを設立し、私もそこで患者さんの対応などを学びました。2年の研修を終えた後、現在の東京大学のアレルギー・リウマチ内科の元となった物療内科を勧められ、そこで学位を取得しました。
学位を取得後、再び聖マリアンナ医科大学の難病治療研究センターへ戻ったのですが、ある時、ひどい痛みを訴える患者さんをみていると、当時のセンター長の先生から、「欧米ではこう言った症状を持つ患者さんはリウマチ科がみている。日本でもリウマチ科医として働くのであれば、こう言った患者さんも見なければいけない。」と言われました。その方の抱える疾患が線維筋痛症であり、私が線維筋痛症の診療に携わるきっかけとなります。
線維筋痛症には単独で発症する一次性線維筋痛症とリウマチ性疾患などの基礎疾患に伴って生じる二次性線維筋痛症があり、当クリニックでは主に一次性の線維筋痛症を診ています。
線維筋痛症は主に40〜50代の女性に多いですが、早ければ思春期から発症しますし、若い方から高齢者まで幅広くみられる病気です。原因は、はっきりしていないところも多くありますが、几帳面、完璧主義、強迫性観念などの性格的な要素も影響していると言われています。実際に性格テストなどを行うとこれら3つの性格が抽出されることが多いです。特に〇〇しなければ気が済まない、といった強迫観念のある方は治療が難しいと言った傾向もあります。
この病気はなかなか他者から理解されない部分もあり、これまで自己否定されてきた経験から、他者に対しても否定的な状態に陥っている患者さんも多くいらっしゃいます。自己肯定することは症状の改善にも良い影響を及ぼす為、診察の過程では、その人の考え方を少しずつ変容させていくことも重要になります。
性格は長年培ってきたものですので、もちろん全てが治るとは思っていませんが、自分のマイナス体験に引きずられてしまうと前へ進めません。それらのマイナス体験を受け止めた上で、疾患を受容し、前向きな治療に対する姿勢を保つことが大切です。意識を変えないことには薬を飲んでも効かないこともあります。
歌手のレディーガガさんもこの疾患だと告白されましたが、自分が世の中のためにできることを考えた時に、音楽を通して人々にメッセージを送ることが自分の役割と考えて活動を行なっているそうです。それが彼女にとって疾患を受容することに繋がったのだと思います。
線維筋痛症の診断は米国リウマチ学会の線維筋痛症分類と言う基準に基づいて行なっていきます。しかし、こちらの基準だけで診断を進めると一次性の線維筋痛症と二次性の線維筋痛症を混同してしまう可能性があります。二次性線維筋痛症はリウマチ性疾患の中でもシェーグレン症候群や脊椎関節炎などで生じやすいですし、甲状腺機能低下症やうつ病などでも見られるのですが、これらの二次性線維筋痛症の患者さんの場合、ただ痛み止めを処方するだけでは意味がなく、基礎疾患の治療も行う必要があります。そのため、まずは基礎疾患にリウマチ性疾患などがないかの鑑別を行っていきます。
まずは患者さんが痛みを訴えている時は、ペインビジョン(知覚・痛覚定量分析装置)という痛みを図る装置を使用し、痛みを数値化します。患者さんの訴えに対して、そんなはずないだろうと医療者が思ってしまうと、それは患者さんにも伝わってしまいますので、痛みを数値化し、お互いに認知することが一番大切です。また、これまでずっと痛みを否定されてきた患者さんも多いので、患者さんのなかの肯定材料をみつけて、伸ばしていくことも必要です。
痛みを減らすためには痛みの発症を抑えるお薬が必要となります。これは人によって異なりますが、この薬を飲んでいると身体が楽だと感じられるお薬、キードラッグを見つけてあげることが大切です。当クリニックでは痛み止めを処方する場合、副作用の少なさからノイロトロピンと言うお薬を最初に処方することが多いです。このお薬は昔からSMON病などで使用されており、高用量であれば脳、脊椎の中枢にも作用し、疼痛緩和に効果があることがわかっています。他の鎮痛薬などでみられる眠気などの副作用がないので、運転などにも支障が出ません。
患者さんの中には肩に力が入った真面目過ぎる人もいらっしゃいます。そう言った方々には、治療を通じて少しでもリラックスしてもらうために、心の負担を軽くするための本を読む事を勧めたりもします。
線維筋痛症の治療の第一目標は痛みを減らすことですが、その先にある社会参加や復帰、就労など、その人のQOLを上げていくための目標を見つけることも大事だと思っています。几帳面であったり、完璧性であったりと真面目な性格な方も多いので、社会参加したい、人の役に立ちたいとおっしゃる方も多いです。その方達が望むレベルまで持っていけるか、そう考えながら診療に当たっています。
QOLの目標では週1回のボランティアを参加だったり、2階まで階段を登ることだったりします。どんな形であれ、各人の目標を見つけることが大切だと思っています。そして、通院の中で目標をステップアップしていけるよう促します。目標設定による動機付けを行うことで社会参加への意欲も出てきますし、自身が社会の中で役立つという成果が出てくることは自己肯定にも繋がります。その人にとって達成可能な目標を探してあげるために、診療の中では生活背景について聞くこともあります。
また、線維筋痛症の治療では患者さんのセルフマネジメントも重要となります。診療ではどうせ〇〇しても、という気持ちに負けてしまってはいけませんし、患者さんご自身がアクセルペダルを踏まないと治療は前に進まないと考えています。そのために来院する患者さんの気分が少しでも上がるようにクリニック一体となって治療にあたっており、施設も設計から工夫をしています。例えば、椅子の手すりやカウンターにはなだらかな曲線をつけ、掲示物は画鋲など先が尖ったものは避けてマグネットを使用すると言った様に、患者さんが痛みを想起させないような配慮をしています。
線維筋痛症の治療では痛みの緩和に鎮痛薬を用います。当クリニックでは鎮痛薬はノイロトロピンを中心としていますが、効かない場合には他のお薬も使います。しかし、お薬によっては鎮静作用もあり、ADLを落としてしまうこともあります。そう言った治療を減らすために、薬物療法以外の方法も組み合わせて治療にあたる必要があると考えており、私は網羅的治療と呼んでいます。当院では磁気を用いた治療の研究も行っており、現在(2019年6月時点)は未だ認可されていませんが、研究では鎮痛薬に対抗できるくらいの結果も出てきています。
また、当クリニックでは線維筋痛症だけではなく、慢性的な腰痛などにも門戸を開いていますし、保険診療だけでなく、自由診療の範囲の治療も行なっています。
日本人は文化的に痛みを我慢する方が多いですが、痛みをしょうがないものと我慢しないで、まず医療機関に相談に来て欲しいですね。
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