※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
子どもの頃、自宅の近くに狭くて交通量が多い道路があり、交通事故が多発していました。なかには事故にあわれて亡くなられた方もいらっしゃり、自分が医師になって助けたいと子供心に思うようになりました。一時は、料理人など他の道を考えたこともありましたが、高校生の時にやはり医師になろうと考え、地元にある広島大学医学部に進学しました。
医学部に入学した当初は漠然と外科医になろうと考えていましたが、私が大学5年生の頃に死因のトップががんになり、がん治療の需要が増していた時代だったので、先輩に誘われたこともあり、消化器のがんを中心にがん治療を扱う原爆放射能医学研究所の外科に入局することにしました。卒業後1年目は大学病院で研修医として幅広く学び、2年目から大学院に進学して胃がんの研究をしていました。その後、関連病院で外科医としての研鑽を積んでいたのですが、教授が退官することになり、新しい教授から勧められたことがきっかけで、大学に戻り、乳がん患者さんを診る乳腺外科を専門にすることになりました。乳がんの治療というと、当時は市中の病院で行うことが多く、乳腺外科の講座を持っている大学は数えるほどしかありませんでしたが、私が所属する医局は早くから乳腺チームを作り診療体制を整えていました。しかし、私が研修を受けた関連病院では乳がんの患者さんはそれほど多くなく、今と違って乳がんに関する書籍も少なかったので、一から学び直すのが大変でした。
以後、臨床では乳腺外科を専門としていましたが、大学では腫瘍に関する免疫機構について研究をしていましたので、そのご縁があってフランスのパスツール研究所に留学しました。1年間の留学でしたが、言葉が通じないですし、文化も違うので大変でしたね。留学の最後に、片言のフランス語で話すと、「黒井がフランス語を話した、奇跡だ」と盛り上がったのを覚えています。
現在は院長としての業務もありますので、初診の患者さんはあまり診ておらず、基本的には前勤務先の駒込病院で診ていた患者さんや、私宛に紹介されて来られた患者さんを中心に診療を行っています。初診で当科を受診される患者さんは、部長の日野先生が診てくださることが多いのですが、日野先生もベテランの先生ですので安心して受診していただけるかと思います。
当科にいらっしゃる患者さんは、主に乳がんを疑われて精査・加療のために紹介されて来ます。40~50代の方が多いですが、お若い方では30代の方もいらっしゃいますし、80~90代といった高齢の方も増えてきているように感じています。
患者さんは主に都内に住まれている方が受診されています。私自身の経験ですが、以前は乳腺外科を標榜している病院が少なかったこともあり、日本各地をはじめ、ヨーロッパの方など海外から受診される方もいらっしゃいました。最近では、乳腺外科医やがんの拠点病院が整備されてきたので、お住まいの地域にある病院を受診される方が多くなっていると思います。それでも、現在でも、口コミを聞いたのか海外から受診される方もいらっしゃいます。当院は2019年1月には外国人患者受入れ医療機関の認証を取得しましたので、海外からいらっしゃった方にも安心して受診していただけると思います。
乳がんを疑って当科を受診された場合、初診時にマンモグラフィ検査と超音波検査を行います。乳がんが疑われる場合は細胞あるいは組織を採取して調べる病理検査を行い、また、必要に応じてMRI検査やCT検査、骨シンチグラフィー検査といった画像検査も行い、がんが広がっていないか調べます。多くの場合、初診からおおよそ2週間で基本的な検査の結果が揃いますので、その後、一緒に治療方針を決めていく形になります。多少の前後はありますが、手術も診断から1~2週間後にはできますので、順調にいけば初診から手術まで1か月程度で行うことができます。
手術の際の入院期間は、乳房全体を切除する乳房切除術を行う場合には1週間前後となりますが、乳房を温存して腫瘍の部分のみを取り除く乳房温存術の場合には、数日程度で退院できる場合もあります。
乳がん患者さんを非常に多く診ているハイボリュームセンターと呼ばれる病院では、検査を行うだけで1か月以上かかったり、手術の予約が2か月先になったりすることもあり、初診から手術までに3か月程度を要する場合もあります。そのような病院と比較すると、当院はスムーズに治療を進めることができていると思います。
外科手術の方法は、乳房全体を切除する乳房切除術と、乳房を残すために部分的に切除する乳房温存術(乳房部分切除術)があります。乳房切除術を選択された方では、手術後に乳房の形を整えるために乳房再建術を行うこともあります。乳房を切除した後、皮膚の下にエキスパンダーと呼ばれる生理食塩水が入った袋を留置して、数か月かけて徐々に皮膚をのばしていき、その後、シリコン製の人工乳房であるインプラントを入れる方法が一般的です。乳房再建術は、左右のバランスが取れたきれいな形になるように、形成外科の先生と連携して行います。
以前は8~9割の方が乳房温存術を希望されていましたが、今は乳房切除術を選択される方が増えてきています。乳房温存術では術後に放射線治療を行う必要があり、乳がんの取り残しや再発があり、再手術が必要になる場合もあります。また、乳房を残せたとしても、左右の形がアンバランスになってしまう場合もあります。それならば、最初から乳房全体を切除して、乳房再建術によって左右のバランスを整えた方が安心だし、見た目にも良いと考える方が増えてきているようです。数年前に乳房再建術が保険適応になったことも後押しとなっているようです。
手術以外ですと、薬物療法や放射線療法があります。薬物療法は手術後に行うことが多いですが、場合によっては手術前に実施することもあります。乳がんには様々なタイプがあり、抗がん剤が中心になるタイプや、ホルモン療法が効くタイプ、Her2に対する薬が効くタイプなどがありますので、どのタイプの乳がんなのかを調べ、タイプに合った治療法を検討していきます。
抗がん剤は治療方法にもよりますが、3か月から半年程度、Her2に対する薬は1年間の治療期間となります。ホルモン療法を行う場合、5~10年の治療期間が必要となり、おおよそ3か月に一回通院していただくことになります。治療終了後は、経過が順調であれば半年に一回、2~3年経過してからは年に一回程度の通院となります。10年間の経過観察が終わったら卒業となりますが、ご心配な方はその後も1~2年に一回程度、受診されています。
乳がんの自覚症状は、乳房や乳首の異常であることがほとんどです。例えば、乳房や脇にしこりがあったり凹んだりしている、乳首から分泌物が出ている、乳房の色が一部変化している、乳首が湿疹のようになっている、といった症状がある場合には、乳腺外科を受診されることをおすすめします。また、ご自身で気づかないこともありますので、乳がんを早期発見するために乳がん検診をきちんと受けることが大切になります。
患者さんに対して、誠実に接することを心掛けています。現在、乳がん治療には様々な選択肢があります。患者さんにとって、病気のことを理解するだけでも難しいと思いますが、さらに治療方法までも理解して選択しないといけないとなると、頭がいっぱいになってしまい、混乱してしまうと思います。そのため、難しい治療方針についてお話する場合には診察枠をその日の最後にお取りするなどして、納得してご理解していただけるまで、どれだけ時間がかかってもお話ができるようにしています。
また、病気をしっかりと診るのは当然のことですが、治療や入院に際しては仕事のことなど様々な調整が必要になります。特に、乳がん患者さんの多くは女性ですので、ご家庭のことについても考えていく必要があります。それぞれの方の事情を把握しながら、治療のスケジュールを立てていくことも大切にしています。
私は臨床が好きで、臨床を中心に生きてきた人間です。現在は院長としての業務もあり、臨床に関わる時間は減ってしまいましたが、今後もできるだけ臨床に携わる時間を確保し、患者さんの治療を行っていきたいと考えています。
また、これまで臨床研究にも力を入れてきていて、治験も多く行ってきました。論文を執筆する時間を捻出することがなかなか難しいときもありますが、これまでに培った知識を生かしつつ、臨床研究にも引き続き携わっていきたいと思っています。
荏原病院は大田区の閑静な住宅街にあり、設立から120年が経つ歴史ある病院です。院長である黒井先生は、「外来時間が終わったとしても、患者さんが納得して理解出来るまではこちらも終われません。どれだけ時間がかかっても、何度でもご説明しますよ。」と話され、とても患者さんに誠実に向き合われていらっしゃる先生でした。
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