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私の経歴は少しだけ特殊なんです。私はもともと医学部ではなく早稲田大学大学院に所属し、生物学の研究をやっていました。特に内分泌学、性分化の領域の研究を専門に行なっていました。
大学院生時代に、縁あって当時東京医科歯科大学腎泌尿器外科の講師をやっていらした大島先生(現館山病院総長)にお会いする機会がありました。大島先生はステロイドホルモンの代謝や分化異常の研究をされていらして、ベルツ賞をとられるなど当時から第一線の研究者でいらっしゃいました。その先生とお話をしていて「きみは性分化に興味があるなら、医者になればいいじゃないか」とアドバイスいただいたのが、医学部に入り直したきっかけです。
もともと医師になる前から内分泌・泌尿器領域の研究に関わっておりましたので、医学部に入って泌尿器科を目指すのは非常に自然でした。ですので、卒業後には大島先生を追いかけて東京医科歯科大学の泌尿器科に入局しました。その際にはすでに大島先生は教授になられていました。
もともとホルモンの研究をしていましたので、前立腺に関してはそもそも興味がありましたが、卒業後数年は泌尿器科の臨床一般を身につけるべく、特に領域を絞らずに幅広く学んで おりました。
その後東京労災病院に勤務する機会があり、そこでの経験が今後の専門を決めるきっかけの一つになりました。当時労災病院の泌尿器科部長でいらした水尾先生が、排尿障害をご専門とされ、先進的な尿失禁の手術などを多数行なってらっしゃいました。水尾先生の下で、私も労災病院にいた5年間の間に、膀胱機能検査や排尿障害の治療など多数の経験をさせていただきました。
例えば、泌尿器科の検査の一つに、膀胱内圧測定という検査がありますが、これは膀胱の中の圧力を測定することで、尿がでない状態が、膀胱が原因なのか、前立腺が原因なのかがわかるものです。自分が行った治療の前後で膀胱内圧測定を行うことで、自分の治療でどれほど改善があったかが明らかになりますので、非常によいフィードバック(学び)になりました。
泌尿器科では、”endourology”(”end”内視鏡 + ”urology”泌尿器科)という言葉があるように、膀胱鏡や腹腔鏡といった内視鏡による検査・治療が大きな部分をしめます。私が入局した東京医科歯科大学腎泌尿器外科の元教授の木原先生が、ミニマム創内視鏡手術という低侵襲手術を第一人者として開発されていたということもあり、私も昔から内視鏡治療、低侵襲手術に関わってきました。
現在、川崎幸病院では、「泌尿器内視鏡治療センター」「低侵襲手術センター」を立ち上げ、内視鏡治療・低侵襲治療に力をいれています。前立腺がんや膀胱がんに対してはミニマム創内視鏡下手術を、前立腺肥大に対してはレーザーを利用したHoLEP(経尿道的レーザー前立腺核出術)、尿路結石に対してはf-TUL(経尿道的尿管砕石術)などを、行なっております。低侵襲手術を幅広い患者さんに適応することにより、当院での入院日数は短くなっていっています。
今後は原発性アルドステロン症の副腎腫瘍に対する腹腔鏡手術なども積極的に行なっていきたいと思っています。
当院の特徴としてはすでに述べた様な低侵襲へのこだわり以外にもいくつかあります。
例えば、前立腺肥大に対するHoLEPでは、前立腺の内腺と外腺の境目をレーザーで切り開いていくのですが、その際に内腺をなるべくひとつなぎにしてまとめてくり抜くことを行なっています。それにより、手術時間が短縮され、出血のリスクがかなり少なくなります。また、内腺を分割切除しないことで、組織をきれいに取り出すことができ、再発のリスクも少なくなります。
また、先進的治療も積極的にとりいれています。例えば、膀胱癌に対して、放射線治療に加えて、体内にポートを設置して、カテーテルから抗がん剤を注入するという治療を行なっています。肝臓がんなどに対して行われているIVRという治療法を膀胱がんに応用した治療で、放射線科との密な連携の下で行なっています。
この治療により膀胱を温存することができ、またシスプラチンという抗がん剤で必要な大量の輸液も必要ありませんので、心臓にそれほど負担をかけずとも可能です。
日本でもこの治療を行なっている病院は、まだ数施設しかないと思います。
私は、患者さんに対するバイアス(偏り)のない治療法の提案を常々心がけています。
例えば、先ほど述べたような、膀胱癌に対して膀胱を温存できるIVR治療を当院で行っているということを知り、膀胱を温存したいという方が当院での治療を希望していらっしゃいます。しかし、膀胱温存よりも、膀胱を切除した方がよりよい予後が想定される場合には、無理に当院での治療を押し付けることはせず、元の病院で手術を受けることをお勧めします。
逆もまた然りでして、PSA(前立腺の腫瘍マーカー)が170まで上昇した前立腺がんの患者さんで、他院で手術ができないと言われて、当院を受診されたかたがいらっしゃいました。当院ならば、手術で前立腺がんを切除しきることができると考え、実際に手術を行いましたが、7年経った今も再発なく元気に過ごされています。
また、先ほどの低侵襲手術に関しても同じでして、低侵襲を追求する一方で、開腹手術の方が確実に治療できると思えばためらわず開腹手術を行います。以前、心機能が悪い90歳近い方で、前立腺が150g程度まで肥大した方がいらっしゃいましたが、HoLEPでは時間がかかり、心臓への負荷が大きいので、開腹で手術を行い、無事切除することができました。
泌尿器の疾患には様々な治療法の選択肢がありますので、迷われている方は当院にご相談いただければと存じます。適切な治療を真摯に提案させていただきます。
最近前立腺がんなどに対してロボット支援手術が普及してきています。ロボットは精密な手技が可能であり、人の手がまがらない方向にもアームを曲げて操作が可能なので、手を入れづらい骨盤腔の奥にある尿道を縫いやすいなどのメリットがあります。しかしその一方でロボットのアームには触覚がないので、気づかないうちにどこかに触れて他の部位を傷つけてしまうという合併症もおきます。
今日、技術の進歩により新たな治療機器が開発され、より低侵襲で安全な手術が可能となります。私としても当院での臨床に使用したいと思っています。
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