※掲載情報は独自の調査・分析により収集しており、最新かつ正確な情報になるように心がけておりますが、内容を保証するものではありません。
※実際に受診を検討される場合には、直接医療機関にもお電話で問い合わせいただくことを推奨いたします。
私は子どもの頃、あまり体が強くありませんでした。喘息も患っていたので、かかりつけの先生にはよくお世話になっていたのですが、先生は診察するだけでなく、遊んでくれることもあり、すごく良くしていただきました。そういったこともあり、物心ついた頃から先生のような人になりたいと思い医師を志すようになりました。
実は、私が医師になって学会で講演をした時に、偶然その先生が座長をして下さったのです。最後にお会いしてからかなり時間が経っていたのですが、先生は覚えて下さっていてとても感動しました。
大学生の頃は心臓外科医になろうと思い、心臓外科で有名な病院での研修の話もいただいていたのですが、先々、自分に何が出来るのかと考え、もっと幅広く様々な疾患を診ることが出来る診療科に進みたいと思うようになりました。
当時は現在ほど吸入ステロイド薬による治療が普及しておらず、喘息のコントロールが不良で、発作を起こし救急外来に来られる患者さんが非常に多くいらっしゃいました。そういった背景もあり、喘息やアレルギー疾患を含めて広く診療したいと思い呼吸器・アレルギー内科に進むことにしました。また、大学生の頃に教わった先生に世界的に著名な呼吸器科医の先生で「世界の牧野」とも呼ばれた牧野 荘平先生がいらっしゃいました。俺についてこい!というような先生で、そんな牧野先生に憧れたということも大きな理由だったと思います。
後に分かったことですが、実は小さい時にお世話になっていた先生と牧野先生はお知り合いだったようで、とても驚きました。
呼吸器疾患全般の患者さんを診ていますが、特に専門にしているのは喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)です。他院の先生から、治療を行っても良くならないからと紹介される場合も多く、地域の先生からご紹介されて来られる方だけでなく、北海道から九州まで全国各地から来られています。
また、意外に思われるかもしれませんが関節リウマチの方も多く診ています。関節リウマチの方は、関節リウマチの合併症や治療の影響で間質性肺炎と言う呼吸器疾患を伴うことがあります。当科にはそういった合併症で関節リウマチを診ている先生から紹介されて来られる方も多くいらっしゃり、それならば自分でも関節リウマチを診た方が、経過中に間質性肺炎が起こっても継続的に治療出来るので良いと考え、診るようになりました。
COPD等では骨粗鬆症や高血圧、心疾患なども患っている方も多く、それらの治療に使われる薬にはCOPDの症状を悪化させてしまうものもありますので、他の疾患や治療など総合的に診ています。
喘息は環境による刺激やストレスなど様々な要因から、空気の通り道である気道が炎症を起こす病気です。喘息発作は風邪をひいた後が多いと言われていて、発作時には呼吸に伴ってゼーゼー、ヒューヒューと音がするのが特徴です。これは、太い筒に息を吹き込んでも音はしませんが、細い筒に息を吹き込むとヒューと音がするのと同じで、気道の炎症によって空気の通り道が狭くなり、音がするのです。
治療は気道の炎症を抑えるためのステロイド薬と、気道を広げるための気管支拡張薬の吸入薬を使うことが一般的です。気管支拡張薬を使用するとすぐに呼吸が楽になるので、患者さんは気管支拡張薬だけ使えば良いと思って吸入ステロイド薬を使わなくなってしまうことがあります。しかし、そもそも気道が狭くなった理由は気道に炎症が起きているからです。喘息の炎症を抑えるためにはどうしても時間がかかりますが、その炎症を抑えるための治療も重要になります。
患者さんの中には喘息は発作が起こるのが当たり前と思っている方も多いので、発作が起こらないように根気強く炎症をコントロールすることが大切ということを丁寧に説明するようにしています。そのために説明用のパンフレットなども作りました。また、吸入薬をきちんと使えていない患者さんも多くいらっしゃるので、診察後に看護師や薬剤師さんからも説明をしています。一度説明しただけでは忘れてしまうこともありますし、種類によって吸い方が異なるものもあるので、診察時間内に十分に説明できない部分を看護師や薬剤師さんに補っていただいています。
以前は年間1万人以上の患者さんが喘息の発作によって亡くなっていましたが、現在では年間約1,500人にまで減少してきています。そのうち90%以上は60才以上のご年配の方で、昔のように子どもや若い方が亡くなることはほとんど無くなってきました。
やはり、喘息という疾患の機序が解明され、適切な治療が行わるようになったからだと思います。疾患を治療するにあたっては、その疾患がどういった機序で起きているのかということを見極めることが重要ということです。
私自身、そういった疾患の発症機序を研究するベーシックサイエンスにとても興味があり、免疫学の第一人者である順天堂大学の奥村 康先生の元で学ばせていただき、白血球の一つである好酸球の活性化因子や、喘息の際に好酸球がどのようにして気道に集まるのかということを研究していました。
COPDは長年の喫煙や有害物質へ暴露されることが原因で起こる病気で、息切れや咳、痰といった症状が特徴です。気道の炎症によって空気の通り道が狭くなったり、肺胞の炎症によって吸った空気を吐き出せない状態になったりします。吸った後に空気が出ていかないため、肺が風船みたいにどんどん膨らんでしまいます。肺が膨らんでくるともう空気が入らなくなりますので、息苦しくなって動けなくなってしまいます。患者さんは動くと苦しくなりますので、少し動いては休んで、動いては休んでというのを繰り返します。
COPDでは数十年かけて少しずつ肺胞が破壊されることで肺気腫が起こるので、息切れや咳、痰などの症状は年のせいと思っている患者さんもいらっしゃいます。そのため、患者さんもその状態に慣れてしまい、自身がCOPDという疾患だと知らずに病院を受診していない人も多いです。COPDの患者さんで実際に治療を受けているのは約5%と言われており、90%以上の患者さんは診断も治療も受けていないと言われています。私たちがCOPDの患者さんを診たときには、まずCOPDという名前を覚えてもらうことから始めます。
治療についてはまずは禁煙です。そして肺に入った空気が出やすくなるように気管支拡張薬を使って気道を広げます。気管支拡張薬を使用することで随分呼吸が楽になると言われます。また、COPDの方は食生活も重要です。炭水化物は二酸化炭素を多く産生しますので、酸素効率を良くするためにも、炭水化物は控えめにして、動物性のたんぱく質を摂取した方が良いと言われています。この他、運動も大切です。息苦しさから運動をしなくなると筋肉の廃用性の萎縮が起こり、いわゆるフレイルという状態になってしまいます。薬物療法だけでなく、運動療法や呼吸リハビリテーションによって生活の質を良くしていくことが重要と考えています。COPDの患者さんは高齢の方が多いので、ご家族にもサポート状況について伺い、疾患や治療方法について理解していただけるように説明します。
しかし、禁煙や薬で治療をしていても未だに年間約12,000~13,000人の方がCOPDで亡くなっています。COPDになる方が増えているということもありますが、治療方法も変わっていかなければならないとも感じており、もう少し深く介入していく必要があると感じています。
患者さんは、どうですか?と聞かれるとだいたい気を遣って「良いです」と言ってしまいますので、本当はどうなのかというのをしっかり聞き取るように心がけています。また、自宅で吸入剤などきちんと使っているのか確認することも大切だと思っています。自宅できちんと吸っていなくて吸入薬が沢山余っていることもありますので、患者さんにはいつも、どれくらい薬が余っているのか伺うようにしています。
喘息やCOPDで亡くなる方をゼロにしたいと思っています。COPDについては、なる人自体も減らしていきたいです。そのためには何よりも禁煙を推進していくことが大切であり、現在WHOとも仕事をしています。一次予防や二次予防はもちろん重要ですが、病気は何が原因で生じるのか明らかにして、病気にならないように取り組んでいくことが大切になると考えています。
病院をお探しになる際には、どのような病院で、どのような疾患の診療を得意としているかよく調べた方が良いと思います。また、受診時には自分がどのような症状で悩んでいて、何を治したいのか、きちんと医師に伝えた方がよいと思います。医師を前にすると緊張して言えなくなったり忘れてしまったりすることもありますので、現在の症状やこれまでの経緯など医師に伝えたい内容はメモに書き留めて持っていくことをおすすめします。
相良先生は、「患者さんからありがとうと言っていただけると嬉しいですし、やりがいを感じます。」と穏やかな笑顔でお話してくださいました。患者さんのご家族からは、「いつもは外出を嫌がるのに通院の時だけ元気になって、通院を楽しみにしているんですよ。」と言われることもあるそうです。「通院は大変ですが、運動と思って来ていただけると嬉しいですね」と優しく話される相良先生は、患者さんやご家族の方から厚い信頼を寄せられているのだと感じました。
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