
元々私は物理学者になりたくて大学に進学したのですが、在学中に挫折してしまい、そこから将来が見えなくなってしまいました。目標を見失い落ち込んでいた時に、たまたま読んだ本がきっかけで人間の精神活動に興味を抱き、心理学科へ転部しました。卒業時に心理学の研究者になろうと思いましたが、簡単なものではないことがわかり、心理学と精神医学は似ていると考え医学部に進学しました。私は高尚な理由というより、初めは学問としての興味に基づいて医学部を志しました。
卒業後は大学病院などで精神科医として経験を積んだので、長い経過の統合失調症の方や重度のうつ病の方を診ることが多く、不安障害やパニック障害の方を診る機会は稀でした。
勿論、全ての医師がそうだと言う訳ではありませんが、当時は入院が必要な症状の重い患者さんに焦点が当てられることが多く、不安障害やパニック障害などは軽視されていた風潮があったかと思います。そう言った方々に薬だけ処方し、後は様子をみましょうと言う診療スタイルが多く、自分自身、これで良いのだろうかと思うようになりました。また、患者さんも重度の症状の方に混じり受診することに抵抗があったり違和感を感じたりされる方も多かったと思います。
外来に通院し、そう言った辛い思いを抱えながらも日々、働かれている方々を見て、精神科医として役に立てることは何かと考え、クリニックで診療を行うことにしました。重度の患者さんが受診することが多かった時代を考えると、以前より受診する敷居は低くなってきたと感じています。
女性は20代、男性は30代の方が多いです。近辺で働いていらっしゃる方が中心となりますが、受診の経緯は他院からの紹介でいらっしゃる方だけでなく、クリニックのウェブサイトなどを見ていらっしゃる方も多いです。
疾患でいうと、一番多く診ている疾患は双極性障害になります。双極性障害と言うのは躁状態とうつ状態を繰り返す疾患になります。初診でいらっしゃる時はうつ状態でいらっしゃることが多いのですが、目の前の状態だけではなく、受診前に起こっていた症状などを照らし合わせると躁状態も混在していることが分かり、それらの情報を複合的に判断し診断していきます。
初診の際には今困っていることや、これまでの経過、治療歴を入念に伺う必要があるので、診察時間は30分〜1時間ほどとっています。お話頂いた情報を基になるべく初診の段階で一度診断を行い、その時点では未だ分からないことも含めて自分の考えをお伝えし、治療方針を相談するようにしています。
どうしても必要な方には初診でも薬を処方しますが、その場合は副作用や体質的に薬が合わないこともありますので、1週間後に診せていただくようにしています。これまでにお薬を服用していた方や症状が安定している方の場合は一ヶ月くらい間隔を置いて通院していただくことが多く、平均すると2〜3週間の間隔で通院していただいていると思います。
薬の中には血中濃度の測定が必要なものもあるので、そう言った薬を処方している場合には診察時に採血も行います。また、臨床心理士が常勤しており、カウンセリングも行っていますので、カウンセリングを受けた後に診察室に来られる方もいらっしゃいます。
木曜日の午前中やお昼休みの空いている時間に各会社の事業所をお伺いし、産業医として活動しています。
産業医としては復職をする方の面接や復職後のフォローアップ、不調が疑われる方のへの面接などを行います。メンタル面の不調を抱えている方以外にも対応しますが、クリニックのように治療を行うのではなく、あくまで相談や受診勧奨が中心になります。
復職面談であれば30分以上かかる場合もありますし、フォローアップの方だと10分程度で終わることもあります。基本的には各会社の方針に合わせて活動していますので、面談はその方個人と行う場合もあれば上司や人事の人を交えて行う場合もあります。
また衛生委員会に参加して、長時間労働の有無などを確認し、就業制限やアドバイスを行うこともあります。繁忙期や人手不足などで一時的に長時間労働となっている方もいらっしゃいますので、その見極めは難しいですね。会社ごとの方針を確認しつつ、信頼関係を構築し、日々改善できるところを探しています
精神科医をやっていて良かったと思う瞬間は、患者さんが成長されたと感じるときですね。心を病むということはとても辛いことではあるのですが、辛い経験を乗り越えていくことで成長される方もいらっしゃいます。患者さんが前向きに治療に取り組み、疾患と向き合って、乗り越えていく姿を見るとやりがいを感じますし、その場に居合わせることができて幸運だなと思います。
治療だけでなく、予防活動にももっと取り組みたいと思っています。
治療も勿論大切ですが、恩恵を受けられる方が限られます。しかし、予防は病気じゃない方もより元気になれる、多くの方に恩恵があります。具体的には労働環境の改善に取り組みたいです。今は働き方が大きく変わってきていますし、企業側にも健康経営の概念がだいぶ浸透してきています。企業側の意識も人材はコストではなく投資という具合に変わりつつありますが、まだまだ労働環境の改善点や課題はたくさんあり、発展途上の段階かと思います。
また、企業だけではなく働いている方の意識も変容していく必要があると思います。両者が健康に向けて取り組むことで、病気になる方が減少していくことが理想だと思います。今はまだまだ治療が主体ですが、徐々に患者さんが減っていく時代になっていくのではないかと思っています。むしろそうなってもらわなければ困りますね。
よく最近の若い方はストレスに対して脆弱だと言われますが、自分の若い頃や周囲の方々を省みても、それほど精神的にタフだったとは思いません。私自身は診療をしている中で特段、若い方がストレスに脆弱だとは感じていません。
例えば3年以内で職を辞められた方に対して、最近の若いのは〜といった風潮がありますが、こういった事も昔からあった事だと思います。ただ、今の若い方は期待されるものが多くなっているのかもしれません。また、昔の方が面倒見のいい人が多かったのかもしれません。周りでサポートしてくれる人が少なくなることで、全て自分がやらなくてはと感じ、心理的に追い込まれている方も多いのだと思います。医師として、いつも患者さんの味方でいたいと思っています。
また、最近他院を通院中で私のクリニックに受診をされる方もいらっしゃるのですが、よくお話を聞いてみると、今通っているクリニックでは先生が話を聞いてくれない、とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。精神科医療では、お薬を出して終わりと言うことはよっぽどのことがない限り生じ得ないと思います。どうしても先生と折りが合わないこともあると思いますので、無理に我慢しなくても良いと思いますが、1〜2回の診察を受け、ご自身が不安に思っていることを伝えないままに病院を変える事は勿体無いような気がします。お伝えしたいことがある場合にはまず伝え、お互いに相互理解を深めていく必要があるのではないかと私は思っています。それに対して医師もできる事、できない事を答えてくれると思いますよ。
産業医としても活動されている小澤先生ですが、インタビュー内ではざっくばらんに様々なことをお話ししてくださいました。飾らない先生の言葉からは日々、患者さんが自らの力で疾患と立ち向かい、乗り越えられるように取り組んでいる先生の真摯な姿勢を垣間見ることができました。
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